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 僕らのことを紹介させてもらったけど、しかしながら、これらは表向きの紹介で自分たち自身のことを知っている僕達同士では同じ紹介でも大分ニュアンスが違ってくるんだな。
 まずはデザイナーの康平。僕の友達は皆そうだけど彼は学生時代さほど勉強ができなかった。でも美術だけはずば抜けてたね。彼は高校の時から裁縫を習ってて、どこにも売ってない奇抜なファッションで原宿を歩くんだよ。四十になる今でもデザイナー兼モデルだからね。原宿で自分の作った服を着て歩くんだ。原宿ではまあいいよ。みんな奇抜なファッションしてる奴ばっかりだからさ。中には頭のいかれた奴もいるね。そういうところだろ。原宿ってとこは。でも彼は電車で帰って駅の帰り道、よく警察官に職務質問されるんだな。まあすごい服だからね。前なんか上半身ほとんど裸で、正確に言えば上は糸のようなものがひらひらついているんだけど乳首がまるみえでね。そりゃあ、警察に職務質問されるよ。おまけに警察官の「職業は?」との質問に「世界のデザイナー」って答え、嘘をつくなと言われて喧嘩になるから署まで来てもらおうって話になっちゃうんだよ。これには嫁さんもあきれててね。迎えに行ってくれないんだよ。最近は僕が署まで行って彼を迎えるんだ。困ったもんだねえ。
 次に武志。教師になって世直し先生になったけど、彼自身も高校のときあれててね。バイク煙草はもちろんやってたけど毎日どっかの高校の奴らと喧嘩をしててね。誰の忠告も受けなかったな。喧嘩は負け知らずだったし、でもあるとき、バイクで百四十キロ位だして警察に捕まってね。まあいつものように威勢は良かったよ。そのときの警官が、
「喧嘩に自信があるんだったら、俺にかかってこい」って言ったらしいんだな。武志は血の気の多いやつでね。警察と喧嘩できるなんてこの上ない喜びだったそうだな。でも武志はその警官にあっけなく負けてね。かっこ悪い形だったらしいよ。武志はグーで向かっていって、向こうの警官は平手打ち、一度もグーなんて使わなかったからさ。武志は単純な奴でね。また来たきゃ、たまに遊びに来ればいいと警官に言われて、遊びに行くようになった。その頃だったかな。武志が勉強をするようになって、大学にまで入った。三流大学だけどね。そんなことは関係ないよ。だって武志は教員の免許を取ったから。世直し先生でテレビに出たけど、今でも一番偉いのは武志を更生させたあの警察官だと思うね。実はつまらない話、あの警察官はボクシングをやってたんだな。まあ真実ってそんなもんさ。
 そして篤史。彼はNPO法人で施設長をやっているが、篤史は二十歳のときできちゃった結婚してね。三十歳の頃だったかな。嫁さんと離婚して、シングルファザーだったけど篤史が三十五のとき、高校生の一人息子が病気を発症してしまったんだ。統合失調症でね。そのときは篤史も苦労したらしいよ。篤史に会う度に本当に絶望的な顔をしているんだな。そして、俺の子育て間違ってたかなって言ってね。
 みんなで篤史を慰めるというか、いたわってやるんだけどね。でもここ二年位前から会社で働きながら子供の面倒をみるのが限界が来ちゃって。篤史は、自ら精神障がい者の施設を立ち上げたんだな。とにかく貯金が二十六万しかなかったらしく、普通の施設は立ち上げられなかった。そして資本金二十六万で民家を借りて、精神障がい者のグループホームの施設を立ち上げた。息子をそこに入れてね。だから彼は働きながら二十四時間息子の面倒をみれるんだよ。おまけに誰か他の職員の日は息子を見てくれる人がいるから自分の時間をもてるんでね。一人で映画を観に行ったり、こうやって僕達と酒を飲めるようになった。実のところ、人間みんな完璧な奴はいないんだろうな。きっと。
 僕のことをいうとだね。これは本当に人に言えるような代物じゃないんだ。まず介護の仕事は僕が初めてついた職業ではないんだ。僕は調理師になりたいと思っててね。高校のとき、先生は僕ができの悪い生徒だったから、いつも僕を職員室に呼び出すんだ。勉強もできなかったし、体育は三だったけど、何かができるわけでもなかったし。康平みたいに美術だけはずば抜けていたとか、そういうものがあったら別だけど、僕はそういうものがなくてね。先生は、
「お前のとくに得意としているものはなんだ?」
 と訊くから、
「まあ、カラオケと料理くらいですかね。料理は店で食えば、どうやってできてるか、何の調味料を使っているか分かるし、カラオケはエコーをかければですよ。結構、平井堅に似てるんですよ。平井堅の物まねができるんですよ。もちろんエコーを二十六くらいまであげればです。エコーをあげないと……」
「平井堅の物まねはいい。調理ができるんだな。調理師は立派な職業だ。調理師になれ」
 先生はそう言ったんだよ。
 それで僕は気が進まなかったけど、高校を卒業すると同時に、目黒にあるイタリアンの店の厨房で働くことになったんだな。まあひどいとこだったよ。店長はいつも僕に怒鳴り散らしてね。他の奴らもまともな奴が一人もいなかったね。一人もだよ。あれはただ単にいじめだよ。それにぼくのやりたかったことはだな。まず厨房に入って、そのときの室温、天気によってどの程度の塩加減にするか、どれくらいパスタを茹でるか。そういう繊細なものを生かした仕事をしたかったんだよ。それなのにあいつら、僕に玉ねぎばかり切らせるんだ。味付けなんか一切やらせてくれない。あいつらの料理を食ったことがあるけど、僕が作った方が千倍うまいね。絶対保証するよ。それに料理に使う玉ねぎを切らせるんならともかく、下積みっていって使いもしない玉ねぎを一日七十個位切らせるんだよ。僕に。参ったね。玉ねぎは、すっかりうれて、大きくなり過ぎたものを切るんだよ。商品にならないものをどこかの農家からただでもらってきてるんじゃないかな。そういうわけで僕は一年でその目黒のイタリアンの店を辞めてね。フラフラしてたんだよ。結局イタリアンの店で一度も料理をさせてもらえなかったな。させてもらえば結果は別だったろうにね。
 そんなとき、近所で「調理ができる人募集」って広告があってね。それが僕の目にとまったんだ。やっぱり小さな民家でね。老人介護施設なんだ。
 僕は何も考えないで、その家のドアをたたいた。もう十年以上も前の話さ。僕が二十四,二十五のときそこの民家の人に、
「調理できるんですけど」って言ったら、明日からでも来てくれってね。それだけじゃないよ。僕に老人介護を勧めてね。ヘルパー二級の資格をとる費用を援助してくれるって言ってくれてね。今では初任者研修っていうらしいね。
 僕はふらっと入った民家で自分の職業を決めることになったんだな。
作品名:LOVELY 作家名:松橋健一