白と黒
「ひどーい、こんなに可憐な少女が朝からおはよーって言ってるのに、ぷんぷん」
「ぱンっ」
なかなか爽快な音がなる。明人がノートで絵里の頭を叩いた。
「朝礼始まるからとりあえず座れ」
「はーい」
隣の席の香奈が明人のほっぺたを突っつきながらこちらに微笑む。
「あっくん♪女の子いじめちゃだーめ♡」
明人はこのやりとりに何度か殺意が芽生えるも、笑ってごまかす。
「おまえら、そろそろ授業始めるぞ」
担任の先生が教室に入ってきて第一声で教室は静まり返った。
1限目の数学の授業が終わり休憩時間中に音楽室への移動の準備を行う。
「あー、やっと数学終わったのに、次音楽とか、どんないじめだよー」
同級生の涼が嘆いた。涼はいつもだるいが口癖のちょっと小太りな怠けものだ。
「いや、まじだるいわ、俺トイレこもってよーかな」
祐希も便乗する。祐希は正義感が強く少し悪な義理高い男に憧れている男の子の一人だった。
「トイレ籠って良いぞー、これからずっとウンコマンって呼んでやる」
巧が祐希のトイレ籠る発言にすかさず反応し、小学生感満載のあだ名をつけようとする。
「いや、それはまじ勘弁」
それを見ていた明人、美菜たちが笑う。
「キーンコーンカーンコーン…..」
「おっとチャイムだ、やべ、急いで行かないとまた、怒られるw」
明人達は急いで音楽へ向った。
「ガラガラッ」
教室に急いで入ったが遅かった。
「こっっら!遅い」
音楽の先生から一発目の巻き舌こらっを食らった。
「すんませんー」
一同平謝り。すぐに授業は開始されたが、相変わらず皆おしゃべりを止めなかった。音楽の先生は何度か巻き舌こらっを炸裂させるも、効果無し。
「がやがや」
授業が始まってからしばらくするも、教室内はおしゃべりする声で溢れている。先生の声など全く通らない。皆それぞれが好きなことをそれぞれ話している。巧はそれを横目に見ながら寝ていた。
それは突然起きた。
「ぁぁもう、うるせー!」
祐希が声を挙げた。一瞬教室は静まり返った
「たまにはちゃんと授業やろーよ」
祐希も精いっぱいの言葉を振りしぼったように見えた。
「はー?え?何?」
「良い子ぶっちゃてんの??頭大丈夫?!」
巧がフザケて祐希をおちょくる
「この状態はあんまりだろ、もうガキじゃねんだから」
祐希も負けじと交戦する。しかし、巧に群がった男子の軍勢が一気に祐希を落としに掛かる。
「良い子ちゃん♪それっ!良い子ちゃん♪」
祐希は軍勢に迫られ、とうとう泣きだした。黙っていた明人が口を開く
「お前らもうやめろって、祐希泣いてんだろ!それに何も悪いことは言ってないぢゃん」
教室は再び静まり返った。
「あー、つまんねもういいや」
巧が言い放ち、授業が淡々と進んだ。そこから巧と祐希、明人は気まずい空気が流れ、とうとう放課後まで一言も話さなかった。テニス部だった明人は、部活終わりに野球部の巧のところへ行ったが、部活は終わりすでに帰っていた。
翌日、巧の家の前で明人が待っていても出てくる気配がなかった。そろそろ出ないと学校遅刻するなーと明人が悩んでいると、
「ガチャッ」
巧の家の玄関が開く。
「あ、おはよーっす」
「あら、あっくん!巧なら結構前に学校に出たよ?今日は一緒じゃないんだねー」
たまたま、出かけるところだった巧のお母さんから告げられた。
「え?あ、そうなんですか」
明人は昨日のことは自分が悪いのか?と自問自答し無性にいらだちながら巧の家をあとにした。下を向きながら、石ころを蹴飛ばし学校へ向っていると、
「あれ!おーい!明人!」
「????」
海斗が通学路にある自販機の所からジャージ姿で声をかけて来た。
「あ、おはよーございます!」
「あれ?かっくん学校行かないんですか?」
「あーもうちょいしたら行くかなー、とりあえず明人今日は一人か?うちでジュースでも飲んでから一緒に行こーか」
「え?!良いんですか!」
不良感満載の先輩は少し遅れて学校に来るのが、男子の中ではカッコイイというのが明人の回りでの常識だった。明人もそこに優越感を感じて、海斗の誘いに乗った。
「ガチャっ」
海斗は実家の隣にあるハナレに部屋があり、家族から少し距離感のあるところで過ごしていた。
「おじゃましまーす…ってあれ?まさくんも居たんですか?!」
雅夫(通称まさくん)は、明人の1個上の先輩、昔馴染みの一人である。
「うい!明人も一緒に行くのか?!」
「はい!今日はたまたまそこでかっくんに会って連れてこられました」
「じゃ、海斗さん準備終わるまで、もうちょい待っとけなー、あ、あとここではかっくんでも良いけど、外では海斗先輩って呼ばないとまずいと思うぞー」
「あ…そうですよね。気をつけます!」
「バタンッッ」
「うし、お前ら行くぞー」
「はい!」
明人にとっては先輩に紛れて遅刻をするこの新鮮な感じに、人知れず高揚感に包まれどきどきしながら学校へ向った。学校の正門前に着くと同級生や先輩達がベランダからこちらをきょろきょろと見ている。
「あれ?今日まだ遅刻じゃねーぢゃんw」
海斗が笑いながら話しかける。
「キーンコーンカーンコーン…」
正門に入って校庭を横切るところでチャイムが鳴った。この学校ではチャイム前に席についていなければ遅刻となるため、チャイムが鳴ったと同時にベランダに出ていた大衆どもは教室の中へ入っていた。
「あ、今チャイム鳴った」
雅夫がボソッとこぼした。
「おーい!!お前らもうチャイムなってるぞ!!!ぼそぼそ歩いてんな!」
生活指導の先生がベランダからこちらに叫んでいる。
「あ”?うっせーぞ禿げ!」
海斗が大声で生活指導に罵声を浴びせる。広い校庭に海斗の声が響く。
「いいか、明人、もし遅刻のことでぐちぐち先向に何か言われたら俺に言えよ」
「はい!」
そういうと、海斗たちはそれぞれの教室へ向った。
「ガラガラッ」
明人は心臓がバクバクしながら教室のドアを開けた。
「遅い!早く席付けー」
担任の先生が一言、明人に告げる。明人が教室を見渡すと、そこには雰囲気の変わった同級生の姿があった。白い目を向けられているのは嫌でも痛感した。美菜ですら目を合わせてくれなかった。
「おし、じゃーホームルームはじめんぞー」
何事もなかったかのように担任の一言で点呼が始まった。ホームルームが終わり授業が始まる前に、明人は美菜に話しかける。
「美菜、おはよー」
「。。。うん」
明らかに美菜の態度は冷たくほとんど反応がない。昨日のこともあり、祐希が心配だった明人は祐希に声を掛けた
「祐希!おはよ!」
「。。。」
祐希は言葉すら発せず、完全に黙りこくった。
「カタンッ」
その場を逃げるように椅子から立ち上がり、巧たちの所に祐希が近寄る。
「昨日のお笑い見た?あれマジおもしろかったよねー」
「見た見た!超ウケたんだけど」
祐希と巧、涼、絵里達が楽しそうに話す。明人は頭の中が真っ白になり自分に何が起きているのか理解出来ていなかった。とりあえず、話している内容に乗らなければと思い明人も巧達に近づき話かける。
「俺も昨日それ見た!あの芸人がやってたやつ、結構えぐかったよねー!」