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遊花工房.:*・★: 《2016.08.05更新》

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だるまさんがころんだ


「はぁーい! のりちゃん。元気してたぁ?」
なぁにが「元気してたぁ?」よ。あれから何年たったと思ってんの!
あたし、さくら小学校の3年生になったんだよ。
「お盆には帰ってくるつもりだったんだけどさ。
ママ、運良く浮遊霊になったもんだから、ついつい遊びほうけちゃって。」
いいわね。相変わらずお気楽で。
「それはそうと、ママのいない間にまたずいぶんと様子が変わったようだけど
あのちっちゃなベッドに寝てる赤ちゃん、、、あれ…( ・д・)…なんなの?」
ママがその天国とやらでふらふら遊び呆けてる間に、いろんなことがあったんだから。

「あの子はね、遊太っていうの。去年生まれたあたしの弟。もうすぐひとつよ。」
遊太が生まれてから、あたしの待遇がどんどん悪くなったんだ。
いつもパパと一緒にお風呂に入ってたんだけど、それも遊太にとられたし
一番気に入らないのは、やれ笑ったの寝返りしたのって、みんな遊太に夢中だってこと。
ただひとつ。あたしが子守唄を歌ってあげないと寝ないってのはかわいいとこだけど。

「へぇ~のりちゃんに弟ねぇ。
ママ、のりちゃんの他には子供いらないっていってたから、パパは大喜びでしょ♪」
喜びすぎなのよ。 。゜(*`3´)ブゥ゜。
昨日の夜だって学校で習った歌を歌ってたら「うるさいぞ!」って怒ったくせに
遊太だと「お♪遊太、えらいぞ!もう“ぞうさん”歌えるのか」だって。
遊太はね、まだおしゃべりできないんだからアゥアゥってわめいてるだけなの!
「だいたい親バカなのよ。」なんかまたご機嫌ナナメになってきたぞ。

「あら、そういうけど。パパ、のりちゃんのときもすごかったわよ。
この子は指が長いからピアニストにしようかなんて機嫌だったわ。」

   ( ̄Θ ̄;) ムゥ

「こないだパパに、ピアニカ買ってっていったら怒られたんだよ!」
ああ、、、だんだん怒りがこみ上げてきた。
「この前の日曜だって公園で遊太と《だるまさんころんだ》やって遊んでたのよ。
あたしがオニになって、遊太を追いかけ回してたらぶつかって転んじゃったの。
パパもおかあさんも慌てて泣いてる遊太に駆け寄って…あたしなんか鼻血出てたのよ、鼻血!!!」
「ぎゃはは!そりゃ災難だったわねぇ。」
お仏壇のママの写真がカラカラと音を立てて笑った。
「わかったわ。パパもおかあさんもあたしのこと、ど~でもいいんだ。
よし、決めた!家出してやる! 
ふたりがどれくらいあたのしことを大事に思ってるのか確かめるのよ。」
スックと立ち上がったあたしの耳元でママが冷たくいった。
「クレヨンしんちゃんの時間までには帰りなさいよ。」

あたりが薄暗くなってきた。今、何時かな。。。
パパがいるときにと思って土曜日にしたけど失敗、“サタスマ”あるの忘れてた。 
お腹もすいてきたし、ちょっと寒くなってきたわ。 
様子をうかがうために犬小屋から顔を出したとき、おかあさんに見つかった。
「のりちゃん、そんなとこにいたの?心配したわ、探してたのよ。」
慌てて犬小屋から飛び出して、向こう側に渡ろうとしたとき。
「あぶない! のりちゃん!!」
なにかが激しくぶつかってきて、あたし宙に飛んだ。
「のりちゃん!!」
おかあさんの声がどんどん遠くなって目の前が真っ暗になっていく。
どうなっちゃうの?誰かたすけて…。

「のりちゃんったら、なにやってんのよ。」
ああ、誰かと思ったら、その冷たい声はママだな。
「ママ、あたしどうなっちゃったの?」
ゆっくり目をあけて驚いた。白いベッドの上に寝ているのはあたし。
そして、そんなあたしにしがみついて、泣いてるのはおかあさん。
パパは青い顔をして、白い服を着た人となにか真剣に話してるみたい。
ここは病院ね。遊太はわけもわからずに、そこらへんをはい回って遊んでる。

「あのとき、のりちゃん。車とぶつかっちゃったのよ。
それであの人…のりちゃんが事故に遭ったのは自分のせいだって。 
のりちゃんの淋しい気持ちをわかってあげられなかったからだって。
さっきからああやって泣いてるのよ。」
おかあさんがあんなに泣いてる。
「ちがうのよ、ママ。あたし、ちょっと拗ねてたの。 
遊太が生まれておかあさんを取られそうで。
だって、遊太はおかあさんのほんとうの子供なんだもの。
あのときの鼻血だって、おかあさんが真っ先に飛んできてふいてくれたんだ。」

ごめんなさい…ごめんなさい… 
何回いえばおかあさんに届くのだろう。

「もういいじゃないの、のりちゃん。それよりママうれしいわ。 
やっとママのそばに来てくれるんだもの。」
「ママのそば?」
「そうよ、天国でママと一緒に暮らしましょう。
本当はママ、とっても淋しかったのよ。」
そうね、天国でママとお気楽に過ごすのも悪くないかもね。
だって、もう疲れちゃった。そう思ったらまた一段とカラダが軽くなった。
あとは三人で仲良く暮らしてね。あたし、ママと行くわ。 

さようなら…。

「そうと決まれば早くここを離れなきゃ。さあ、のりちゃん。ママにつかまって。」
そのとき、隅っこで遊んでいた遊太が急に立ち上がってよちよちと歩き出した。
「見て、ママ。遊太が歩いてる!」
おかあさんはまだあたしにしがみついてて、遊太が歩き出したのに気がつかない。
倒れそうになりながら一歩…二歩… あたしのほうに近づいてくる。
「のんたん、のんたん」遊太がしゃべったわ。今、あたしを呼んだでしょ。
遊太は眠くなったのか、とうとう泣き出しちゃった。
「のりちゃん、なにしてるの!早くママのところに来るのよ!」
ママがあたしを急かすけど、あたし…どうしてもここを離れられない。
「のりちゃん! 早く!早くママにつかまって!」
「のんたん… のんたん…」
遊太が呼んでる。あたしの子守唄を待ってるんだ…。
「ママ、ごめんなさい。あたし、やっぱり行かないわ。 
だって遊太があたしを呼んでるの。子守唄歌ってあげなきゃ。」
「なにいってるの!のりちゃん!のりちゃんってば!!」

最後に悲鳴に近いママの叫び声が聞こえたけど、あたしは遊太のところへ帰っていった。
一瞬ママの哀しそうな顔が浮かんだけど、あのママのことだもの。 
またケロッとしてお仏壇の写真から顔を出すにちがいない。

あたし、今度は本当に目を開けてみた。 
一番最初に見たものはうれしそうなおかあさんの顔。
パパはあたしに頬ずりした。やめてよ、きもちわるぅ~!
あたしが元気になって病院から帰ったら、また公園で“だるまさんころんだ”やろうね。

だ~るまさんがこ~ろんだ!

「指切った!」つないだ小指が切られて、わぁっとオニから逃げる。
「とまれ!」そしてドキドキしながらオニがつかまえにくるのを待つのよ。