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遊花工房.:*・★: 《2016.08.05更新》

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さいごの一歩


「だ~るまさんがこ~ろんだッ!あ~おばあちゃん!動いた♪」
この頃は足腰も弱くなっちゃって、ついよろけてしまう(苦笑)
孫たちと遊ぶのも息が切れちゃうよ。
「ごめんよ。おばあちゃんもう疲れちゃったから。」
このあと孫たちが遊んでるのを見守りながら
縁側でついウトウト居眠りしてたときに
あたしの耳元で誰かが囁いたのよ。

「のりちゃん、そろそろお支度しなさい。」
あれはパパだわ。だっていつものコロンの匂いがした。
閉じた目を少し開けてみると、薄ぼんやりと一筋の光りが見えて
緩やかな階段があたしの人生を包み込むように、遥かなる天界へと誘(いざな)う。

 とっても…穏やかな…気持ち。

静かに目を閉じて、心を鎮めて…。
その日の夜、あたしはそのまま目覚めることはなかった。

天寿を全うして導かれるままに天に昇ると
そこに待っていたのは…。

「やっほぅ!のりちゃん♪やけに老けたじゃん。」
ケバいまんまのあたしのママ。
あたしよりう~んと先に天国に行っちゃったくせして
どうしてこんな入り口付近でうろうろしてんのさ?

「やだわぁ。のりちゃん。ママはこんなに若くてキレイなままなのに
娘がおばあちゃんだなんて。なんか変なか~んじ!」
カラカラカラ♪っと相変わらずの高笑い。そうなのよ…。あたしのママ。
若くして交通事故で亡くなって、パタパタと天に召されていってから
もう気が遠くなるくらいの月日が流れて行ったのに、まだお気楽に“浮遊霊”をエンジョイしちゃってる。

「しかし惜しかったわね~ぇ。百歳のお誕生日が目の前だったのに。」
人さまも恨まず、ただただ穏やかな日々を過ごしてきたから
静かに静かに舞い降りてきた天からのお導きで
なんの未練もなくここに来ることができたんだよ。

 ママとちがって(笑)

ママが死んでしまって、新しくおかあさんが来てくれて…。
あのね、あのね。。いろんなことがあったんだよ。

 “だ~るまさんがこ~ろんだッ♪”

まるでこの遊びとおんなじね。
おかあさんが振り向くとあたしがソッポを向く。
手をさしのべられても意地を張って逃げ回る。
そして反抗しながらも追いかけてきてくれるのをずっと待っていたこと…。
そんな想いをかみしめながら、あたしたちの子供や孫に昔ながらの遊びを伝承してきた。
だって最後はちゃんと《手をつなげる》遊びだったもの。

なつかしい思い出に浸っていると、さっきからずっと下界を見下ろしてたママがあたしに手招きをした。
「ところでさぁ。パパはどこなの?」
お盆も帰ってこなかったからさ、今パパがどこでなにしてんだか知らないのも当然だわね。
パパはね、真面目にここで徳を積んで一足先に下界へ降りていったの。
最後のお役目はあたしをここに連れてくることだったのね。
天界で過ごすわずかな時間は、地上ではあっという間の時の流れに相当するらしく
パパはアルバムで見たことのあるスーツ姿の似合う青年になってた。
そのパパを追いかけるように生まれ変わったおかあさん。
やっぱりね、前世が大恋愛だったふたりだもの。
どこか記憶の片隅にお互いの存在を大切に残していたのかしら。
生まれ変わっても、前世から結ばれていた赤い糸をたどって出会ったふたり。
想いは同じなのに、それを言葉にできないことで気持ちがすれ違ってるの。

「ちょっと、ちょっと!パパったら!生まれ変わってもちーっとも性格変わってないじゃん。」
なんのことかと思ったら、鈍感なパパに気持ちが伝わらなくて
おかあさんが泣いてるのがここから見える。

「オンナってね、ひとことでいいから”好きだよ”っていってほしいものなのよねぇ。
もう、あれだけママが言って聞かせてたのにさ。パパ、学習能力ないわ~!」
ママがやきもきしたってしょうがないじゃん(笑)

「パパってさ、昔からそうなんだけど照れ屋なのよね。
そんなパパを振り向かせるのに必死だったわ。ママもかわいいとこあるでしょ♪」
なるほどな。それで逃げられなかったわけか。。。(気の毒に)
そう、ママはいつでも一生懸命だったよね。
うれしい時は一緒にはしゃいでくれたね。(恥ずかしいくらいに・笑)
悲しい時は何も言わずにそっと抱きしめてくれた。(ママの方が号泣してたし・苦笑)
いつまでも無邪気で子供のようなママ。わがままで怒りんぼで…。
それでも大好きだったお茶目なママ。
成仏せずにいつまでもお仏壇のまわりを浮遊してたのだって
実はわたしのことが気がかりだったんでしょ。知ってるよ。。。

 ☆゚・*:.。.☆゚+.゚

ベロアの空にこんぺいとうのような星くず。
噴水のある公園でただ黙って肩を並べるふたり。
愛を囁くには絶好の設定なのに、恥ずかしがり屋のパパはどこかよそよそしく
なにも言い出せないままに時間だけがもどかしげに過ぎていくだけ。
一途に念じればきっと想いは通じるはずなのに。
そんなやさしい気持ちをかき消すようないつものママの怒鳴り声。
「あん、もう!じれったいわねっ!」

噴水の水の音だけが響く静かな公園で
ただ泣いてるおかあさんの肩にも触れられずに
黙り込んでるだけのパパにとうとうママが怒り爆発~!
「力を貸してあげるわ♪」
言い終わるやいなや、ママは白い煙になって
おかあさんの心の中にす~っと入っていったの。

まさか押し倒すんじゃないだろな?!(ハラハラ)

するとね。ただ水の音だけを聞きながら
恥ずかしそうに下を向いてたおかあさんが
急にツンと口を尖らせてこういった。

「ねぇ! あたしのことキライなんでしょ?」

あちゃ~i||l|i(;゚∀゚;)||i|li; ザー
これはママの声だわ。(オロオロ)
でもね、慌てたパパがこういったの。
「いや、好きだよ。大好きだよ!」
パパが強気のおかあさんを抱き寄せた瞬間、ママはあたしのもとに帰ってきた。
「ほらね♪ こういう時は逆を攻めちゃうのよ。」
なるほどねぇ。「好き…。」そうね。なかなかいえない言葉かも。
「キライ?」と聞かれると素直に言えちゃうもんね♪さすが、ママだわ。

「ママね、なかなか振り向いてくれないパパに、いじわるしながらじゃれつくのが大好きだったのよ。
言葉にはしなくても、ムリヤリ繋いだ手から大好きは伝わってくるもの。」

そうなのよ。ママはいつもパパが一番で、おはようのキスをふたりで奪い合ったりしたね。
やさしいパパのひざの上で、しあわせそうに寄り添ってるママを見るのが大好きだったんだよ、あたし。
「ねぇ、のりちゃん。ママもそろそろ下界に降りて、素敵な人と恋でもしてみようかしらね。」
そだね。その前に“天使養成学校”とやらでたくさんたくさんお勉強しなきゃ。
それによってはさ、ママ。今度は人間に生まれ変われないかもしれないわよ。あはは!

「ママがまた赤ちゃんを生むときにはさ、絶対のりちゃんをご指名するから!またママの子供に生まれてきてね。」
や~なこった!って思ったけど、それも悪くないなと思える今日この頃。
ほんと年取ったわ。(爆)

“だ~るまさんがこ~ろんだ・・・だ~るまさんが・こ・ろ・ん・だ・・・”

最後の一歩はまた生まれ変わるためのステップとして
愛する人たちをそっとそっと見守ってあげましょう。