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遊花工房.:*・★: 《2016.08.05更新》

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はじめの一歩


「はじめのい~っぽ!」
「だ~るまさんがこ~ろんだ…だ~るまさんが… や~めた!あたし帰る!」
あやちゃんもみかりんもみんな唖然としてたけど、なんだかあたし遊ぶ気しないの。
理由(わけ)はこう。パパが先月結婚した。
別にその人のことキライじゃなかったんだけど
「今日からわたしがママよ」って急にいわれたって、あたしどうしていいかわかんない。
あの人が作ってくれた幼稚園のお弁当に「ふん!( ̄^ ̄) 」しちゃってから
あの人もあたしもギクシャクしちゃって、まともに口きいてないの。
それだけならまだいいんだけど、こないだもっとやっかいなことがあったんだ。

お仏壇の前で幼稚園で習った歌をうたっていたら、ママの写真がこういうの。
「のりちゃん! あの女の人はだれなの???」
気取ったママの写真が眉間にしわなんか寄せちゃったりして、びっくりしたのなんの。
「ひどいじゃない。パパものりちゃんも。ママだけ一人残してさっさといなくなっちゃうなんてさ。
あれからママ、血の池地獄に足すべらせちゃって大変だったんだからぁ。」

そうそう…。いい忘れてたけど1年と3ヶ月前
みんなでドライブに出かけたとき、事故に遭ってママだけ死んじゃったのね。 
「だってママ。あっちでみんなが呼んでるわって
パパが止めるのも聞かずに、ひとりでさっさと川を渡っていったじゃないの。」
人の話なんて聞いちゃいない。相変わらず真っ赤な口紅がお似合いのママ。
「それになによ。やっと1年と3ヶ月ぶりに帰ってきたと思ったら、あの女はなんなのよ?
お部屋の様子も変わっちゃって。ママのお気に入りの薔薇のカーテンはどうしちゃったの?」
ああ、あのケバイやつ?あれならママが死んだ翌日に、あたしがはずして捨てたんだ。

ママは散々あれはどうしたの、これはどうなったのと怒鳴りまくったあげくに
(まったく!生きてる時と性格変わらないんだから)最後にあたしにこう言った。
「いいこと、のりちゃん。絶対にあの人のこと“ママ”だなんて呼んだりしちゃだめよ。
ママはママなんだから。」
ああ…。お外はあんなにお天気なのに遊ぶ気しない。
幼稚園でお弁当食べてないからお腹もすいたしな。
台所にはあの人がいるし、お仏壇のおまんじゅうはママが見張ってる。
こんな状態いつまで続くのかしら…。

 「のりちゃん、のりちゃん!」
夜中になると決まってママがあたしを呼ぶの。
「あの人今ね。のりちゃんのワンピ縫ってるみたいよ。
だけどフリルもリボンもついてないしセンス悪いの。絶対着ちゃだめよ。」
この頃ママったら調子に乗っちゃって…。
ハデハデのママが選んだスカートよりも、よっぽどセンスいいと思うけど。

なんだかもうどうでもよくなっちゃった…って思ってたところに、あたし見ちゃったの。
久しぶりにお外であきちゃんとおままごとして、こっそり家に帰ったら
お台所の戸が開いてた。今日のお夕飯なにかしら?ってのぞいたら
あの人…あたしが残したお弁当を食べながら泣いてたわ。 
あたし…そんなに悪いことしたのかな。なんだかとっても嫌な気持ち。

「の~りちゃん」ママが呼んでる。
「のりちゃん、これ見て。」
お仏壇のママの写真の前に、真っ赤な薔薇が飾られてる。
「すごいじゃない。ママ、これどうしたの?」
そっか!確か今日はママの月命日だったっけ。。。
「さっきね…あの人が飾ってくれたのよ。ママが薔薇の花が好きだからって。
花を飾りながらママにこういったわ。
“わたしは子供を産んだことがないから、母親にはなれないのかしら…”って。
なんだかね、ママ…あの人がかわいそうになっちゃって。。。」
ママの写真から眉間のしわが消えてた。
「ママはのりちゃんの本当のママだから、そんなこと考えたことなかったもの。
それに知らなかったんだけど、パパね、お肉よりお魚の方が好きなんだって!」
知らなかったのはママだけだよ。くすくす…
「ねぇ、のりちゃん。そろそろ終わりにしない?お弁当食べてあげなさいよ。」
なにいってんのよ!相変わらずいい加減なんだから~。それにいまさら…・。
「ママもいい加減成仏しないと、本当に天国に行けなくなっちゃうわん。」
ずうずうしいなぁ…行けるつもりでいるんだ(笑)
「のりちゃん。あの人いい人かもしれないわね。 
ママは死んでしまったから、もうのりちゃんやパパのお世話はできなくなっちゃったけど
あの人ならきっと一生懸命やってくれそう…・。」
お言葉ですがママ。生きてるときもお世話してくれたことなかったじゃん。

「でもママ、いまさらどうやってあの人と仲良くしたらいいの?」
「そうね、はじめの一歩が肝心ね。
それにやっぱり“ママ”って呼んでほしくないわ。ママはママなんだもの。」
「もう!それじゃどうすればいいのさ!」
「いい言葉があるのよ。ちょっと耳を貸してごらんなさい。」
あたしは耳を冷たい写真に押し当てた。
「なるほど…できるかしら。。。」
「だいじょうぶ♪できるわよ。さて、ママはちょっと天国まで行ってくるわ。
ねぇ、天国ってどんなところかしらねぇ。わくわくしちゃう!
お盆には帰ってくるからね。その時にまた逢いましょう。じゃ~ねぇ~♪」
お気楽なあたしのママ。でも安心して。そんなママもきらいじゃないからさ。
天国でも派手な服きてホッホッホッって高笑いしてんだろうなぁ。

さて、問題はあたし。次の日いつものように、お夕飯の準備してるあの人のうしろで
からっぽのお弁当箱差し出して勇気を振り絞ってこういった。

 「おかあさん」

そのあとボーっとなっちゃった。
振り向いたあの人の顔は笑ってたんだけど、変なの…。目が泣いてんの。
その次にふわっと抱きかかえられてはずかしかったけど気持ちよかった。
おかあさん…おかあさん…おかあさん…
ああ、なんていい響き。こころが軽くなっていくみたい。
うしろでママがにらんでるような気がしたけど、うふふ…気のせいかな。

はじめの一歩を大きく踏み出したなら
あとはゆっくりゆっくり近づいて行けばいい。
だ~るまさんがこ~ろんだ…だ~るまさんがこ~ろんだ…
「あっ!のりちゃん、動いたぁ!」
それでも小指と小指をつなぐことができるでしょ。