遊花工房.:*・★: 《2016.08.05更新》
雨の糸つむいで
雨… 雨… 雨…
ほおづえついてあゆちゃんは、窓辺で昨日から降り続く雨を見ていました。
あしたは幼稚園の運動会。
病気のおばあちゃんが楽しみにしてて、あした一日だけ病院から出てくるのに。
「一緒にダンス踊ろうと思ったのにな…」
うらめしそうに空を見上げて、あゆちゃんはひとつ大きなため息をつきました。
「あしたの運動会は中止かなぁ。。。」
雨がやんだとしても運動場は乾きません。
がっかりしてまたひとつため息をついたとき
目の前に、三角ぼうしをかぶった小人さんがふわりと降りてきました。
「やぁ♪さっきからつまらなそうにしてるけど、雨はきらいなの?」
あゆちゃんはびっくりして、その小人さんに聞いてみました。
「あなたは…だぁれ?」
小人さんがひょいと飛び降りると、ピチャンと地面が音を立てました。
「きみはどうして雨が嫌いなの?ほら♪こんなに楽しいじゃない。」
小人さんは空き缶や葉っぱや水たまり、トタンの屋根や窓ガラス
いろんなところに跳ねてまわりました。すると…
トン、テン、カン、ピッチョン、ピッチャン
トン、テン、カン、ピッチョン、ピッチャン
いろんな音が素敵なリズムを刻んで、メロディーが生まれます。
「雨が嫌いなわけじゃないの。ただあしたの運動会…」
いつのまにかあゆちゃんのまわりには、三角ぼうしの小人さんたちがたくさん集まっていました。
「この雨いつやむの?」
「それはわからないな。お日さまの元気次第さ。」
お日さまはいつお顔を出してくれるのでしょう。
そのとき小人さんのひとりが叫びました。
「ほら!雨雲が切れてお日さまが顔を出すよ♪」
慌てて空を見上げたあゆちゃんでしたが、雨は相変わらずショボショボと降り続いてます。
「ぼくらにはわかるのさ!がっかりしないで。確かに雨はやむよ♪」
手を胸にあてて祈るような気持ちで空を見上げていると
不思議です。小人さんのいうとおり、雲の切れ間からお日さまの光が漏れてきました。
「お日さまの具合でぼくらの仕事が決まるんだ。」
青空が広がりだし、お日さまも強い力で照らし始めます。
するとパラパラ落ちてくる雨が、七色に透き通りきらきらと輝いてきました。
「さぁ、急いで!」
三角ぼうしの小人さんたちはくるくると動き回り、その雨の糸を束ねて紡いでいきます。
「なにをするの?あたしも手伝う!」
あゆちゃんも赤や黄色の雨の糸を集めて、見よう見まねで紡いでいきました。
やがてどっさりと七色の雨の糸ができあがり、お日さまの光を浴びてもっとやさしく輝き始めました。
「わかった♪これを編むのね。編んで空に架けるんだわ!」
雨がやむ。
そして地面が乾けば、あしたの運動会にはおばあちゃんが来てくれる。
大好きなおばあちゃんといっしょにダンスが踊れます。
あゆちゃんは夢中になって、その雨の糸を手で編んでいきました。
おかげで予定よりだいぶ早く空に虹が架かりました。
あんまり急いで編んだので、ところどころほつれそうにはなってるけれど
でも今までに見たこともない、なんだかとってもあたたかい虹でした。
「おばあちゃんも病院の窓からこの虹みてるかな♪」
そう話しかけたときには、小人さんたちの姿はもうどこにもありませんでした。
たぶんあしたは晴れるでしょう。パンパンパーンと火矢があがって
あゆちゃんとおばあちゃんが楽しみにしてた運動会が始まります。
「内緒だけどね、おばあちゃん。昨日の虹、あれね、あたしが編んだんだよ♪」
うふふ。。。おばあちゃんびっくりするかな。
それとも鼻を鳴らして笑うでしょうか。
作品名:遊花工房.:*・★: 《2016.08.05更新》 作家名:遊花