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遊花工房.:*・★: 《2016.08.05更新》

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星の降る夜


少しむし暑い夏の夜。眠れなくてカーテンをそっと開けてみた。
そこには満天の星たちが描く一枚の絵がある。
窓辺に座ると、星たちのささやきが聞こえてきそうで
そっと耳を傾けてみた。

「星に手が届きそう。。。」

ひときわ美しく輝いてる星に手を伸ばしてみたとき
ひとすじの光がスーッと落ちてきたかと思うと
ピカッと光って目の前がまっ白になった。

ドスン!「あいたたた…!こりゃひどいことになったな。」
見たこともない男の子?
髪の毛が金色に透き通っていてふわふわと宙に浮いてる。

「あなた…誰なの?」あたし…びっくりして聞いてみた。
「ぼくかい?えへへ…信じてもらえるかな?ぼくは星っ子。
あの雲の上のまた上に住んでるのさ。」
お尻についた泥を払いながら、藍色の目をキラキラさせてそういった。

「そんなあなたがどうしてここにいるの?」
いつの間にかその星っ子は、あたしの目の高さでゆらゆら揺れていた。
「友達とね、流星に乗ってツーリングしてたんだ。
そしたらスピード違反だってペルセウスが追いかけてきたもんだから
つい調子に乗ってね。進入禁止の立て札を突破しちゃってこのザマさ。」 
“そんなあなた”がここにいるわけはわかったけど
わかっちゃうと余計に不思議なこともあるもの。

「それであなた…その雲の上で何をしてるの?」
星っ子はさっきからあたしの髪を撫でている。
「ぼくの仕事?そうだね。いろいろあるよ。
春になって寝てる虫たちを起こしてあげたり
草や木に花をつけたりするのは得意なんだけど
あの寒い夜に白い玉を降らせるのは苦手かな。
あぁ、帰ったらバツ当番が待ってる。汚れた星くずを磨かなきゃ。。。」

ふと気がつくと、あたし三日月の上に座ってた。
赤や黄色、むらさき…いろんな星たちが足下で光ってる。
手を伸ばして、そっと星くずをすくってみた。
サラサラとまるで砂のように、指と指の隙間から星くずたちがこぼれていく。

「この星たちがキラキラ輝いているのは、あなたのおかげなのね?」
星っ子はその星くずたちをごくりと飲み干した。
「そうだね。いたずらばっかりしてるから(笑)」

星っ子はもっともっと高くて、そしてもっと遠いところを見つめていた。
「今日はずいぶん星が出てるなぁ。こんなとき流星に乗ってドライブすると最高なのに。
馬力のある流星なら、宇宙を一周するのもあっという間なんだぜ。」
あたしも星っ子の視線を目で追ってみた。

「あの満天の星たちに、紫やオレンジの色をつけるのもあなたなの?」
「そうさ。でもぼくら星っ子は、まだ星くずにしか色をつけられないんだ。
もっとオトナにならなきゃね。上手になると虹に色をつけることもできるんだぜ。
これはむずかしいから試験に合格しなきゃだめなんだけど。」
笑いながら星っ子は、筆に絵の具をつけて色を塗るマネをしてみせた。

「あたしもあの星のかけらがほしいな。。。」
それは声には出さなかったのだけれど、星っ子には心の波動が伝わったみたい。
「ん…と、それはどうかな。
だってこの地球に落ちてくると、星はただの石ころになってしまうんだよ。
星の魂がぬけちゃうんだ。星はこの地球では生きてはいられない。」
そういった星っ子の瞳がどんな青よりも蒼くて碧い、もっと深くて澄んだ色に変わった気がした。

「地球が汚れてしまったからなの?」
三日月をやさしく撫でながら、少しうつむき加減で星っ子はこう答えた。
「それもあるかもしれないね。何千年も何億年もむかし、地球がもっともっと蒼かった頃
いろんな生き物やめずらしい木や花があったって話だから。
実は今、ぼくはちょっと息苦しい。悪いけどここの空気はちっともおいしくないね。」
「そうね、あたしもそう思うときあるわ。」
「この前惑星を担当しているおじさんが、地球のお掃除だけは追いつかないってぼやいていたよ。」

空いっぱいに星が溢れて、どんどんどんどんこぼれ落ちる。
こぼれ落ちた星たちは、いったいどこへいくんだろう。
地球に落ちてきた星は、本当に息苦しくなって死んでしまうのかしら。。。
うちの庭に転がっている石ころは、もしかしたらそのむかしこの空の彼方で
美しく輝いていた星だったのかもしれない。
そしてかすかに息づいていて、こんな星の降る夜に誰にも気づかれないように
こっそり光ったりするのかな。
星空の神秘がいろんな想像をかきたてて、胸の中に小さなメルヘンが生まれた。

三日月が揺れるがままに身をまかせていた星っ子が、もっと高いところで輝いている星たちを見上げた。
「ほんとうに今夜の星は見事だね。こんな星空が見えるんなら地球もまだまだ大丈夫さ。」
自分の何もかもが星っ子に見抜かされてしまったようで、おそるおそる聞いてみた。

「ねぇ、あなたはこんな風に夜空を見上げて星を数えてる人の心もわかっちゃうの?」
「ふふふ…。まだまだ修行中だけどね。
でもね、きみの瞳を見たとき、ちょっとだけわかるような気がしたんだ。
瞳の奧にひとつ、せつなそうに蒼い星くずが揺れていたもの。恋をしてるんだね。」
胸がキュンと啼いた。

「人は星空を見上げてお願い事をしたりするけど、それは誰が叶えてくれるのかしら。」
見慣れた部屋。あたしは自分の部屋の窓辺に座っていた。
星っ子はずっとあたしの髪を撫でている。
「ほんとのことをいうとね、誰も叶えてはくれないのさ。
星に語りかけることでその人の心がやさしくなる。強くなれる…ような気がする。
自分の願い事は自分で形にしていくんだよ。
ぼくらはそんな気持ちになれるように、ちょっとお手伝いするだけさ。」

あたしはやさしい星っ子の手を取っていった。
「あたし毎晩窓を開けて空を見上げるわ。こんな夜はきっとあなたのことを思い出すと思う。
そして勇気が沸いてくると思う。そしたらしあわせな気持ちのまま一日を終わることができるわね。」
「ふふふ…そしたらぼくはきみに贈り物をひとつしたことになるね。」
星っ子がやさしくあたしの髪を撫でるから、つられてあたしもクスクスと笑った。

「もう行かなきゃ。日が昇る。あれに乗って帰るんだ。ぼくはとっても気に入ったよ。
この地球…そしてきみ。きみのその長くてキレイな髪も。元気を出して!ずっと空から見てるよ。」
手を振るが早いか、それからまた星っ子はひとすじの光になって
あの空の彼方へ吸い込まれていった。

真っ赤な太陽が昇っていく。
さっきまでの不思議な出来事をかき消すかのように。
あんなにあふれていた満天の星たちが、オレンジ色の光で色あせながら
静かに夜が明けていった。
今夜また星が流れたら、そっと手を合わせてみよう。
さっきまでの不思議な出来事。緑あふれる地球のこと。
そして…あなたのこと。。。。満天の夜空に流れ星が流れたら
それはちょっとドジなお星さまのかけらかもしれない。

夜空にそんなメルヘンを*:..。o○☆゚・