永遠の遠距離恋愛2
知らない町の初めての海岸線を二人、自転車でゆっくり走る。
にこやかで穏やかな彼に同調するように、ここのところ仕事で忙しかった私の身体や気持ちは弛緩した。
空にはかもめとカイト。並んで走る彼の笑顔は昨晩ベッドで見せてくれた優しさ満点の顔だ。
ずっと、こんな暮らしをしていたいと私は思った。
出来ないこともない。少しだけ彼と将来の話しを始めればいいだけだ。
だけど遠距離恋愛だからというのも否めない。理想と現実・・・何度もそのギャップに打ちのめされたはずなのに、また夢を見てしまう。それだけの魅力がこの恋にあるのかもしれない。
「ねえ、お腹すいた。どっかでご飯食べようか」私は上機嫌の彼に言った。
「いいよ。どこでもなんでも僕でも」
その言い方がおかしくて私は笑った。なんだか彼といると笑ってばかりだ。
穏やかな海風が時折、頬を撫でる。潮の匂いがする。
港に係留したヨットや小船が波に揺られ、護岸の緩衝材にぶつかるギィーギィーした音が聞こえる。
自転車が歩道を踏み走る音。どこかで釣り人の話し声。
五感に音楽のように心地よく、現実が転写される。
目の前を走る遠くから来た遠距離恋愛の男、この男を私は暫く手放したくないと思った。
(完)