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レイドリフト・ドラゴンメイド 第19話 思い出の帰還

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 春風 優太郎だ。
 周りが歌に集中していたのは、春風にとって最後のチャンス。
 春風はこれにかけ、立ち上がり、走り出そうとした。
 だが、その足元にはポイズン・チェーンを踏みつけていた。
 当然、黒い火は足を飲み込み、固まる。
【くそう! どけっ! 】
 優太郎はその体勢のまま、手当りしだいに周りの者を殴り始めた。

【やめろ! 】
 威厳のある叫び。エピコス中将の声だ。
 シエロは驚いた。
 父が両腕を、大きく左右に広げた!
 その後ろには、惑星スイッチアすべての者がいた。
 チェ連人、天上人、地中竜、海中樹。
 エピコス中将は、その手で三種族との戦いを指揮した。
 時には直接銃を向けた。
 その手を、かばうために差しだしている!

 だが、優太郎はシエロが思い至ったことを気にしていなかった。
【俺は戦士。当たり前だ。俺は戦士……! 】
 春風自身が自分を呪うように放たれた、低くて不気味な声。
【俺は、人間と平等になんて、なりたくないんだ! 】
 固まった魔法火の中から、皮膚と肉を引き裂く嫌な音がする。
 ひときわ大きくなった音の中心から、爆風の様に巨大な金属の足が現れた。
 その姿は、生徒会のいるシェルターに現れた姿!
 魔法火の拘束を逃れ、何とか立ち上がった春風は、巨大なつま先を尺取虫の様に動かす。
 それはシエロの予想以上の速さだ。
 その直後、優太郎の口の中へ天上人の視線が飛び込んだ。
 そこで記憶は途切れた。

――◆――◆――◆――◆――◆――◆――◆――◆――◆――◆――◆――◆――

 達美専用車の中から、一本のワイヤーが伸びていた。
 レイドリフト1号の右腕を守る、ガントレットから。

 ワイヤーガン。
 高性能モーターでワイヤーを飛ばし、先端についたヤモリテープで壁などに張り付く。
 モーターは人2人を余裕で引き上げる。
 ヤモリテープとは、トカゲのヤモリをモデルに開発された。
 ヤモリの足には細かい毛が生えており、それが壁などの目に見えないような凹凸に引っかかり、張り付くことができる。
 しかもこの毛は一方向に並んで生えるため、ある方向に向かって動かせば簡単にはがせる。
 ワイヤーガンに仕込まれたそれは、細いワイヤーで操られるシリコンによって操られていた。
 シエロを転ばせた後は、すぐに外れて戻っていった。

 シエロにはもう、驚くという気持ちはなかった。
 それを奮い起こす神経伝達物質は、使い切ってしまったと思った。
「父達は、その後どうなった? 」
 それでも、心配する気持ちは消えない。
 ボルケーナが答えた。
『大丈夫。けが人もなく、無事に会議室へ入ったよ』
 シエロは、久しぶりにうれしい気持ちになった。
「そうか……」
 もう、逃げても無駄だという事は分かった。
 それどころか、逃げる必要さえないことが分かった。

「ごめんな・さい。 ごめんなさい」
 達美専用車から、すすり泣く声がする。
 見れば、アウグルに腕をつかまれた、カーリタースが泣いていた。
 逃げようともせず、ただ静かに泣いていた。
「地球人を、召喚することが、地球を実効支配、することだなんて。
 僕は信じてなかった!
 副主任が! そう言えば地球人は怖がるから安心だって!
 僕が臆病でグズだからこんなことに!
 ごめんなさい! 」
 激しく泣くカーリタース。
 その鼻から、一滴の血が流れた。
「カーリ君! 血が!
 どこかにぶつけたのか? 」
 アウグルがあわてている。
「違います……。これは僕がとろいから。小さいころ、怪獣の血液を浴びたんです」
 その言葉を聴いた時、その場にいた全員が息をのんだ。
「お前、怪獣毒素合併症だったのか?! 」
 最初に驚きの声を上げたのは、シエロだ。
 怪獣とは、通常物理ではありえない能力を持つ、巨大生物。
 当然その体組織は人類にとって未知のものが多く、それによる病気には治療方法が確立されていない物も多い。
 それに、新陳代謝が遅くなるため、体が太ることも知られている。
『あなた、そんなリスクを背負ってたのに、チェ連で最高の科学者になったの!? すごい! 』
 達美が尊敬のこもった声を上げる。
『待ってよ。カーリ君が怪獣合併症だとして、どうして智慧のテレパシーとかでわからなかったの? 』
 シェルターではキャロが、智慧を見つめて聴いている。
 あちらの人たちの視覚は戻っていた。
『カーリ君自身が体の不調を病気のせいだと思わず、自分のせいだと思い込んでいたのよ。
 強力な思い込みまでは、テレパシーも無力だわ』
 智慧の声には、心から申し訳ないという気持ちが滲んでいた。

 シエロとカーリタースは、この時、再び絆が繋がるのを感じた。
「ところで、ここはどこだ? 」
 シエロは立ち上がる。
 さっき見たとおり、目の前にはレンガの壁がある。
 その持ち主は、3階建の小さなビルだった。
 日差しはさしてこない。
 どこかの路地裏だった。
 立ち上がり、唯一明るい方向を見てみると。

 うっそうとした、杉林があった。
 ビルと林の間には、2車線の道路。
 地面に段差は見られない。
 道路まで出てみると、左右に市街地と林が並行して伸びているのがわかった。
 林の奥から、天に向かって尖塔が伸びていた。
 高さは約50メートル。先はスリット状に天窓がはめられた、直径20メートルはある大きなドームだ。
 それを、何段も重なった大きな屋根が支えている。
 茶色の石で組まれた壮大なそれは、年月によるしみ一つなく、ガラスはキラキラ輝いている。
 
 シエロの知らない建物だ。
 いや、思いだした。
「臆病者の城? 」
 知ってはいるが、それは宇宙からの攻撃で、半分以下の高さにまで崩れた廃墟のはずだ。
 それでもあまりに大きくて、危険なので、解体されることもなくのこっている。
「マトリクス歴王大聖堂……」
 すぐさま、カーリタースが説明した。
 シエロが呼んだのは、大聖堂の蔑称だ。
 そこは、今やすっかりさびれてしまったチェ連固有の宗教。
 それを、はるかな昔にこの地を治めた、マトリクス王国が建立した寺院だ。
 全てが戦争のために使われ、現実主義が尊重されるチェ連では、現実にはない物に救いを求める宗教は、臆病者のしるしなのだ。
「そのレプリカ。そして隠れた科学者たちの最後の砦だよ」
 怯えてはいたが、カーリタースの声には、チェ連の評価に立ち向かう強い意志が込められていた。

 空は、どこまでも澄み渡った青空。
 そこに、オウルロードが操る兵器や砲火が飛び交う。
 それまで美という物に特別興味がなかったシエロにさえ、それは大聖堂にふさわしい光景には思えなかった。
 だが、何よりふさわしくないのは、大聖堂の真上に空いたあのポルタだ。
 割れ目はさらに鋭く割れ、大きくなっている。
 その向こうには、燃えるフセン市が。

 だが、その火は徐々に小さくなっている。
 見れば、街のあちこちで勢いよく水が噴き出している。
「消火栓か? 」
 シエロは思った。
「いや待て。あれほどの水圧でいっぺんに水をだすことなど、できるのか? 」
 そんな水道など、意味がないように思えた。