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風待ち

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「あゆ、よくできました。ご褒美は……」
「にいちゃんのお嫁さん」
「え、え、ええぇーー」
「私、毎年この輪をくぐって お願いしてきたの。にいちゃんは私のこと嫌い?」
「あゆ、ぼくはまだ あゆの好きな『水無月』が上手く作れない」
「だから?」
「だからって…… あゆに褒めてもらえる和菓子が作れたらぼくから……。それに」
「それに?」
「それに ぼくとあゆは ひとまわりも歳が違うんだよ。あゆは嫌じゃないのかなって」
「にいちゃんは 嫌なの? もっとオバサンがいい? それお父さんに言ったら駄目よ」
「そっか。あゆのお母さん若いもんね」
「うん十五歳違うもん。ね、問題ないでしょ?」
ぼくは、すっかりあゆの調子に乗せられていた。
「もういいかい? 聞こえちゃっているんですが、仲取り持ちましょうかぁ」
芳弘さんの割り込みで会話は納まったが、ぼくの気持ちは興奮状態のままだった。

そしてこの秋、丈さんの許しも得て結納を届けた。
翌年、繁忙期を避けた、夏越の前の六月十六日に結婚式と入籍をした。

結婚式のウエディングケーキは、あゆの希望も取り入れてぼくが作った。
引き出物の和菓子は 両家の父親の親父と丈さんが作ることになった。
母とあゆのお母さんは、僕の作った見送り用のプチギフトの焼き菓子を綺麗にラッピングしてくれた。
手作り感のある披露宴だったが、あゆはやや満足していない様子だった。
「あゆの出番がなかったもん」が理由のようだ。
でも、僕にとっては あゆは一番大切なことをしていてくれたと思っている。
あゆの明るい笑顔は、これからもぼくを支え、みんなに喜んでもらえるような優しく嫋(たお)やかな和菓子と温かみのある洋菓子を作れるだろう。

ちなみに 六月十六日は『和菓子の日』なのです。


あれからぼくは……
ふたりの親父から しっかりと技法を叩きこまれている。
小豆の煮える音が ぼくの代わりに愚痴ってくれている? いや 語りかけてくる。


ぐつぐつぐつ ぷっつつつ……





     ― 了 ―
作品名:風待ち 作家名:甜茶