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かなりえずき
かなりえずき
novelistID. 56608
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夢遊オートパイロット

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「夢遊オートパイロットへようこそ」

「え……? なんですか?」

「ここでは、あなたが寝ている間に
 自分のやるべきことを勝手にやってくれるんですよ。
 あなた、変なこと聞きますね」

部屋には大きなベッド式の機械がある。
このまま改造人間にされてショッカーと戦わされても文句は言えない。

「ま、私が長々と語っても仕方ないですよね。
 百聞は一見にしかず。まずは体験してみてください」

「あ、ちょっ、ちょっと!?」

ベッドに寝かされるとスイッチオン。
重低音の機械音が耳に届くと同時に眠りに落ちた。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

目を覚ますと、同じ部屋だった。
たっぷり寝たのかすっかり体が軽く、
まぶたの裏にいつも感じていた眠気はすっかり消えていた。

「なんだろう。すごく体が軽い」

「でしょう? この機械は超高密度睡眠も提供できるんです。
 あ、でもさすがにこれはお貸しできないので、
 夢遊オートパイロットの薬をどうぞ」

白衣の男は小さな錠剤を渡した。

「何も覚えてないでしょうけど
 あなたが寝ている間に、寝たままのあなたが動き出して
 家に戻ったりしていましたよ。ほら10時間も経過している」

時計を見て驚いた。
数分だけ経った気分だったが10時間も経過している。

「10時間!? 大変だ!! 仕事も溜まってる!
 それに、それに、ああああ! やること山積みなのに!
 あんた、なんてことしてくれたんだ!」

「またのご利用をお待ちしてまーす」
「二度と来るか!!」

慌てて家に帰ると、約束していた顧客に謝罪の電話を入れる。

「大変申し訳ございません!
 お約束していたお取引に行けなくて、実は渋滞が……」

『ああ、あの取引ね。こちらも前向きに検討しますよ』

「えっ」
『えっ?』

「もう……結んだんですか?」

『あんた変な人だなぁ。自分でやったことも覚えてないのかい?』

慌てて錠剤の入っている袋から、
薬の効能についてを穴が開くほど読んでいく。


"あなたの記憶から行動パターンを予測して
お休みになっている間に、あなたの代わりに活動します"

錠剤名:24時間がんばるくん


「商品名ださいな!!」

どうやら俺は寝ている間に商談をしていたらしい。
いや、それだけじゃない。
10時間寝ている間に部屋の掃除も終わっているし、
果ては録画したまま見ていない番組も覚えている。

「これ……すごいじゃないか!
 俺はついに睡眠時間をも活動できるようになったぞ!」

かねてから1日24時間しかないことを悔しく思っていた。
でもこれなら、人の2倍、3倍の時間を効率的に過ごせる。

「先輩、もう帰社するんスか?
 いつも残業ばっかりしてたのに」

「ハハハ。俺には秘密兵器があるからね」

早くに帰宅して薬を飲んで、夢遊状態の俺が仕事をする。

「キャーー! 夢見先輩、一番早く帰社しているのに
 誰よりも仕事を終わらせているなんて素敵! 天才なのね!」

「フフフ、そんなことはないよ子猫ちゃん」

自分でも顔が赤くなるようなセリフが出る。

残業だけじゃない。
いつもはやらなかった料理も寝ている時に行える。
避けていた運動習慣だって寝てれば苦じゃない。

「先輩、なんだか前よりずっと若くなりましたね」

「だろ? 俺もそう思う」

俺の体はすっかり健康そのものに早変わり。
飯炊き女房を欲していたような自立力ゼロの俺はもういない。

すっかり夢遊オートパイロットにハマっていた頃、
1件の電話がかかってきた。

『あ、もしもし? ひとみですー。
 昨日は楽しかったね、また話せないかな?』

「ひと……え? 誰?」

『あははは、じょーだんきついよ。
 昨日あれだけ盛り上がったじゃない』

覚えてない。
ぜんっぜん覚えてない。

そもそも女の子との接点なんてない。
ひとみって誰だよ。どんな漢字書くんだよ。

電話を切ると同時にあぶら汗が額をつたう。

「まさか……夢遊オートパイロット……?」

原因はそれしかない。

起きている間に俺の記憶はない。
となれば、寝ている間の俺が何かしていたんだ。

「マズイマズイ……このままじゃ、
 ある日起きたら"子供ができちゃった"とか言われかねない!
 かといって、今さら薬もやめられない!」

今、夢遊オートパイロットを手放せば俺の日常が崩壊する。
そうなれば、以前の残業漬けのプライベートゼロ習慣。

そんなのは絶対嫌だ。

俺はボイスレコーダーや手紙やムービーなどを引っ張り出して
寝ている間の自分へのメッセージをとにかく残した。

「いいか、俺。よく聞くんだ。
 お前が何を考えているかわからないが、勝手はするな!
 いいな。俺が指示したことだけを、寝ている間にするんだ!」

寝ている間にやることリストは冷蔵庫に貼っておいた。
俺ならきっと読んでくれるはず。

俺は自分を信じて眠りについた。


翌日、目を覚ますと冷蔵庫の貼り紙には返信が添えてあった。


>なんで俺ばかりつまらないことばかりしなくちゃならないんだ。
>俺はお前が心から望んでいることをしている。

>お前、自分の胸に手を当てて考えてみろ。


言葉を失った俺の後ろから声が聞こえる。

「おはよ。ずいぶん早いんだね」

恐る恐る振り返る。
下着姿の女が俺の部屋にいた。

一瞬で事情を察した。
寝ている間の俺は……俺だけど、俺じゃない。
起きている俺ができない行動力がある。

いい意味でも、悪い意味でも。

「うわあああああ!!」

俺は錠剤すべてをトイレで吐いた。
自分のあずかり知らないところで、勝手に何かが進んでいる。

それがこんなにも恐ろしいことなんて思いもしなかった。

「ねぇ、どうしたの? 顔色悪いよ?」

「大丈夫、大丈夫だからっ。
 は、早く帰えっ……」

その瞬間、焦った拍子でトイレで滑り、便器に頭を打った。


 ・
 ・
 ・

「……大丈夫ですかな?」

病室で目が覚めた。
頭には包帯が巻かれている感覚がある。

「俺は……」

「ああ、君の頭ね。問題はないよ。
 記憶の欠落もないし、外傷も残らないから安心しなさい」

「そうですか……よかった」

「でも、しばらくはここで寝泊まりしてもらうよ、いいね?」

「ええ、願ったりかなったりです」

家には夢遊用の錠剤がいくらでもある。
薬に依存しているこの体を治療するにはいい環境だ。

これを機に、きっぱり薬を断ち切ろう。

薬を使わなければもう二度とあんなことにならないのだから。

「しかし、驚いたねぇ。
 意識を失うほどの傷だったのに、
 君ときたら車を自分で運転してこれるんだからね」

背筋に氷を入れられたような寒気が襲った。
もう俺は引き返せない段階まで来ていた。

「うそだ……だって……俺は意識を失って……。
 薬は飲んでない……ここに来れるはずがないんだ……」

「いやいや、君自身が来たんじゃないか。
 "頭を打ったので急いで治療をお願いします"と。
 意識を失っていたわけがない」

「うあああああ!!」

薬ナシでも俺は夢遊オートパイロット……。