目黒さんの心霊的事件簿ファイル
「君って思ったより細くて白いんだねえ…」
「そんなにジロジロ見ないでくれます!?何ですかこの見世物小屋にいる見世物の気分!」
「少なくとも見世物小屋の見世物の方が君よりは価値は上がると思うけどねえ」
「そりゃそうです…って何写真撮ってるんですか!」
目黒さんは何処から取り出したのかさえわからないインスタントカメラで僕の姿を撮った。
舌を出すように現像された写真を目黒さんは丁寧に引き抜き、扇で扇ぐように乾かした。
「…危ない、ねえこれは」
おいで、と呼ばれて現像された写真を見てみれば後ろの方に人の手のような物が出ていた。
「えっ…これ…僕大丈夫ですか…?」
「屍はちゃんと拾ってあげておいてあげるよ」
あっこれ完全に死ぬ前提だ
「えっちょ…僕塩握った方が…」
「塩?プールにはちゃんと塩素入ってる奴だから不必要だよ」
「いやそういうことじゃなくて…」
「ええい、まどろっこしい。そんなに嫌でもやるのは一緒なのだから早く行って来い」
そうやって背中を蹴られ僕はプールに顔面から入った。
行って来い、は逝って来いの間違いではないのかと思う余裕しかなかった。
ただわかるのは僕が無事に夏休みを向かえられるかどうかわからないということだった。
白い手や触手は僕の体の方に伸びてきて確実にプールの底へ留まらせようと掴んでくる。
プールの中、ひんやりとする水の感覚とは違ってゾッとする程冷たい白い手が、体のあちこちにまとわりついてくる。
体を少し動かそうとしても手や触手が更に力を込めてまとわりついてくる。
暴れれば暴れる程、僕の体は締め付けられてくる。
決め手に手のようなものが僕の首を締め上げては体内の酸素を吐き出させようとしている。
これは苦しいとか以前に痛い。僕は酸素を手放してプールの底に沈んだ。
夏休み…折角だから遠出しようと計画した家族旅行が…無くなっちゃうのは残念だなあ…。
意識を失う前に何か黒く長い物を見た。
鞭のようにしなやかに流れる黒い糸の塊の中から僕を襲う白い手とは違う白き手が頬に触れるとふわりと浮かんで解放された気がした。
その後の事は夢なのか実際に見たことなのかは覚えていない。
だが、そこにはいつもつきものおとしをする姿の目黒さんの姿があった気がする。
作品名:目黒さんの心霊的事件簿ファイル 作家名:むいこ