自選句集
2015年
話すこと特にはなくて雑煮喰う
表情を消し一月の雑踏に入る
下唇に触れるどうにでもなれ
梅五輪受胎せしとの娘のメール
君がため赤き布団を干す朝
ごめんねと先を越されて忘れ霜
春の河ひとを本気で愛しけり
肩車して木蓮に触らせる
赤い靴のジャグラーの来て街の春
不同意と伝え公民館を去る
雪解けの斑に黒し阿蘇の原
角を曲がれば爆発している白木蓮
病窓より見送り受けて初燕
諦めを覚えし少女金鳳華
水銀灯続く帰る場所は在るのか
諦めてエスプレッソの苦さかな
あの角とネイルアートの細い指
シャーペンの芯の危うさ初等露語
火星赤く癌検診の茶封筒
藤棚や二時のバスまで五十分
がやがやと素麺囲む七回忌
軽トラの集い直売所朝焼す
洗剤買う恋じゃないなら何なのよ
忘れられ続けて玄関に松ぼっくり
寡婦もあり少年もあり陽炎ひぬ
スプーン手に座敷ぼっこの夢見たの
分け入ればしいぶなくぬぎまてばがし
高速船降りて色なき風に会う
外煙草皆死に絶えし夜の明くる
洗濯機にどんぐりふたつ残りおり
ここだよとコスモスの海に児らの声
茸飯うかと悩みを忘れけり
振り返り振り返り猫出奔す
月巨きくて国道に兎奔る
秋の日や指貫をして母の顔
林檎むく四つの瞳に見つめられ
敬老会狸喰ったの喰わぬだの
冬薄日君が解けなかった知恵の輪
ストーブの火に悔恨のほどけゆく
老教師バスを降りれば冬帽子
ごめんなさい父は二月に死にました
冬花火あなたを憎むことにする
一杯だけココア飲んだら帰ります
うなされていたわよ外は冬の雷
霰打ついっそハムスターにでもなるか
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
現代俳句協会に入ると自動的に「西九州現代俳句協会」にも参加したことになるらしい。そこから「総会・句会」の案内が来たので、投句だけしてみた。ずっと前に作った句
「外套に碧き孤独を包み居り」を。
それきり忘れていたら、ある日、小包がとどき、「優秀句」と書かれた小さな楯が入っていた。二席だったらしい。
いま(2016年6月)に至るも、わたしがもらった唯一の俳句の賞品である。テレビの上に置いて家に来る人に自慢することにした。
わたしは西九州現代俳句協会の会長前川弘明という人に「わたしの家の近くで現代俳句の句会はありませんか?」とFAXした。前川さんは「ありません。長崎市内でわたしが主催する句会が伝統俳句の枠を取っ払った句会です。来ませんか?」
「見学」ということで、車で一時間半かけて参加してみた。
投句しろというので、「洗剤買う恋じゃないなら何なのよ」を出したら、前川さんは特選にとってくれて褒めてくれた。
他の句会ではあり得ない。無季だし字余りだし口語だし。
「ああ、わたしの居場所はここなんだ。」と思った。
それ以来、この句会「萌句会(月二回)」に参加している。遠いから一日つぶれるのが難点だけど。