自選句集
2014年
おめかしの君とシチューとシクラメン
犬の仔と戯れしうち松明けぬ
諍いなどしたくないんだ寒雀
初売や花一鉢を買ってみる
スパイクの児ら駆け抜けて猫柳
定期船待ちて余寒の風の中
眠そうな蛙をよけて朝の畦
大根の花無言にて鋤き込まる
押し合って新一年生整列す
春灯や君が黒髪梳く仕草
春しぐれねえ次はいつ会えるかな
額紫陽花おしあわせにと書く別れ
センターのグラブ届かず雲の峰
十杯の麦茶並べて児らを呼ぶ
あめんぼの向こう岸へと発つ門出
ドレッシングは何が好きなのトマト切る
鍬置いて八月九日十一時
死にたい夜は大盛りのほうれん草パスタ
白露過ぎて罪無き虫を殺しけり
もう寝ます葡萄一房冷えてます
栗剥くのどうせわたしでしょ
トラクターのエンジン切れば鶴渡る
鶏をころして食べたのはこのわたし
一夏を君の性器と宴して
堕落の手前を右喪失の先百米
薄野に見え隠れして迷い猫
遙けくも来つるものかな熟柿喰う
帰りなん振り向けばただ芒原
太陽を百回まわる間のじたばた
草原を横切る野菊を踏まぬよう
ツバルからの文読む通勤快速の中
六人で持つ栄二こんなに軽いのか
腰骨の奥に君居て霜柱
みづうみに真黒き機影神の留守
オリオンを背に引き返す闇の土手
捨てられしでんでん太鼓煤払い
捨てちまえ捨てちまえったら年果つる
ふくふくと冬至のかぼちゃ炊きあがる
声なき夜ストーブ二つ量子論
「前向きに生きろよ」こいつを殴りたい
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伝統俳句の枠をはみ出す俳句も発表の場がある、そのことでわたしは口語句・自由律句・無季句などを自由に詠むようになった。とても開放的で楽になった。
「六人で持つ栄二こんなに軽いのか」や「「前向きに生きろよ」こいつを殴りたい」などの無季の句やセックスを詠んだ「一夏を君の性器と宴して」、自由律の「死にたい夜は大盛りのほうれん草パスタ」など、現代俳句協会に出会わなかったらこれらの句は生まれなかったと思う。
そのネット句会でも高得点をとったことは一二度しかないけれど、協会の大畑さんという人がわたしの句を気に入ってくれて、「推薦するから協会員にならないか」という手紙が来て、よくわからないけれど嬉しかったので一万円を払って現代俳句協会に入会した。