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雨つぶチャッピの冒険

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ルルがぼくのそばにやってきた。

「ここにいちゃ、とぶ練習にならないの」

「やっぱり、とぶんだ。どうしてもとばなきゃいけないの?」

ぼくは少し不満そうな顔をした。

そのとき、エンジンが大きなうなり声をあげた。ヒコーキが向きを変えたため、翼が傾いた。

ルルがバランスを崩して転がった。ぼくは叫んだ。

「ルル、大丈夫?」

「大丈夫!」

ルルは、翼の端にかろうじてぶら下がった。

「チャッピ、さあ、勇気を出してとぶのよ」

ぼくは、とぼうと思った。だけどなかなか心が決まらなかった。

そのとき、頭のなかでチューイジコーのランプがふたつ点った。

「ルル、チューイジコーはみっつだったよね。まだふたつしか・・・」

「な、ときに、チャッピったら、もう。そう、たしかにみっつ。みっつめは・・・」

「みっつめは?」

「みっつめは・・・」

ルルは翼の上にはいあがった。

「ジャアクナヒカリを決して見ないこと」

「ジャアクナヒカ・・・?」

エンジンが再びうなり声をあげて邪魔をした。

「今度、ゆっくり説明するから、今度」

「今度って、いつさ?」

エンジン音はますます大きくなった。機体がゆっくり傾きはじめた。

「せーのぉ、でとぶのよ、チャッピ!」

と、ルルは言ったらしい。

エンジン音に邪魔されて、ぼくには聞こえなかった。

「せーのぉ」

ルルは翼からとびあがった。と同時にルルの姿は翼の上から消えた。

エンジンの風圧で、はるか後方にとばされたのだ。

でも、ぼくは翼にしがみついたままだった。

「チャッピ!」

ルルの声が遠ざかる。

「ルル!」

ぼくの叫ぶ声は、エンジン音にかき消された。





ルルがどこかへ行っちゃった。

ああ、ルルがどこかへ行っちゃったよ。

どこにいるの、ルル?

ぼくは不安な気持ちのまま、ごう音をたてて震える翼の継ぎ目にひっそり隠れた。

頭上を過ぎ去る風が少し弱まってきた。ヒコーキが速度を落としはじめたのだ。

箱庭の風景が、より近くに見えるようになってきた。




「おいっ、雨つぶ!」

そう言って何かがぼくの前を横ぎった。それはすうっととんでは空中にとどまり、とんではとまった。

「そんなところで何してる?」

と話かけてきたのは、むらさき色の羽根をばたつかせたツバメだった。

ぼくは落ちこんでいたので黙っていた。

「なんだ、とべないのか?」

とツバメはぼくの尻をつついてきた。ぼくは答えるしかなかった。

「とぶ練習の途中さ。休憩してるんだ」

あきらかに強がりだった。ツバメは見抜いていた。

「ははん、もしかしてお前、新米の雨つぶだな」

「それがどうしたの。キミには関係ないでしょ」

「言っとくが、このヒコーキの行き先は格納庫だ。そこで泡のついたローラーでごしごし洗われる。いつまでもへばりついていたら、ローラーでペシャンコに押しつぶされちまうぞ」

「・・・・・・」

「お前、インストラクターはいないのか?」

「インストラクター?」

「お前にとび方を教える奴さ」

「いるよ、・・・いたよ。ルル・・・ルル姉さん」

「はぐれたのか?姉さんにはぐれちまったのか? お前、迷子か?」

「ルルを探してよ」

「探してやらないでもないが、この調子じゃな」

ツバメは空を見あげた。数えきれないくらいたくさんの雨つぶが、思い思いの軌跡を描いて宙を舞っていた。

ツバメはむらさき色の背中を、ぼくのほうに向けた。

「しゃあない、乗りな」

「えっ、乗れって言われても・・・」

ツバメはヒコーキからずいぶん離れたところで羽ばたきをくり返していた。

ぼくが、まごまごしていると、

「これ以上近づけないんだよ。エンジンに呑みこまれちまうからな。ほら、心配するなって。ちゃんとキャッチしてやるから。さあ、とぶんだ!」

とぼくをせきたてる。

ぼくは意を決して、翼から空中にとびだした。

いきなり風圧でとばされ、それからおそろしいスピードで落下しはじめた。

瞳をつぶって手足をバタつかせていると、何かにぶつかった。

ツバメの背中だった。

「下手くそだなあ」

ツバメは呆れ顔をして、ぼくに言った。

「お前、名前は何ていうんだ?」

「ぼく?ぼくの名前はチャパリオラット・コリンタスキノス。長いからチャッピでいいよ」

「俺はマテオ。お前にとび方教えてやるよ、チャッピ」

「えっ、ほんとう?」

「さあ、すぐはじめるぞ」

マテオは羽根を羽ばたかせて、背中に風をおこした。ぼくはその勢いで吹きとばされた。

「わぁ、落ちるぅ!」

空中に投げだされたぼくは、なすすべもなく自然落下した。

「下手くそ!」

寝そべるようなかっこうでマテオは、ぼくが落ちるのをとなりでながめていた。

「教えてやるから」

気がつくと、ぼくはマテオの羽根の上にいた。

「息をふかく吸いこんで、とにかくリラックスすること。顔にあたる風が気持ちいいと感じはじめたら、しめたものだ」

「リラックス?」

「そう、気持ちをラクに」

ぼくはふたたび、空中に投げだされた。

「リラックス、リラックス」

ぼくは頭の中でくり返した。瞳をぎゅっと閉じたまま。

「瞳をつぶってちゃダメだ、チャッピ。瞳をひらいて」

そう、ぼくは全然リラックスしていなかった。

「視線はやや斜め前方。ほら、いい眺めだろう?」

瞳をひらいても、景色をながめる余裕などあるはずがない。今やぼくの頭の中は、リラックスでいっぱいなのだ。

さらにマテオの指導はつづく。

「もっとからだをひらいて。からだの真ん中で風を受けとめる感じ」

ぼくは空中でいろいろ試してみた。しかし何をしても今ひとつ、しっくりいかなかった。

そこでぼくはひとつの疑問をマテオにぶつけてみた。

「マテオ、キミの説明ってもしかして、キミたちのとび方の説明じゃないの?」

「そうだよ。俺たち鳥類のとび方の基本さ。鳥類だって雨つぶだって、とぶことには変わりないだろう?」

違う気がした。

でも、とばないわけにはいかない。

練習をくり返して、ようやくちゃんと瞳をあけられるようになった頃、ぼくたちはずいぶん地上の近くまでおりてきていた。

「危ねえっ!」

マテオは頭を引っこめた。何かかたくて黒っぽいものが下からとんできたのだ。

「くそっ!ワルガキたちめが!」

汚い言葉をはいて、マテオは身をかわしながら急上昇した。

地上から大小の石ころが空に向かって放たれていた。それらはマテオに届くことなく、放物線を描いて地上に落下した。

「一度、あいつらをとっちめてやんないと、気がおさまらねぇ」

マテオはとても憤っている様子だった。

「チャッピ、レクチャーはこれでおしまいだ」

「ありがとう、マテオ。でもぼくは、ルルを見つけないと・・・」

「そうだったなぁ」

マテオは腕組みをして、地上をながめ回した。はるか遠くの平原に列車が走っているのを見つけると、ぼくに言った。

「あの列車は街へ行く。街ならきっと、ルルの手がかりが見つかるはずだ。どうだ、チャッピ。列車が見えるか?」

「うん、何か動いているのは見えるよ。ずいぶん遠いね」
作品名:雨つぶチャッピの冒険 作家名:JAY-TA