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カクテルの紡ぐ恋歌(うた)Ⅳ

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 九月半ばの日差しが差し込む窓際で、美紗は鞄から携帯端末を取り出した。規則上、勤務場所には私用の電子機器類を持ち込めないため、メッセージなどの着信状況をチェックする機会は、まとまった休み時間に限られる。普段、美紗が日中に友人とやり取りをすることはほとんどなかったが、それでも昼休みに一度は携帯端末をチェックするのが習慣になっていた。

 第1部長の日垣の私用携帯のアドレスから、メールが入っていた。

『Y女史との接触には気をつけてください』

 更衣室に溢れていた話声が消えた。美紗が手元の液晶画面からゆっくりと視線を上げると、色を失った視界の中で、吉谷の姿だけが鮮やかに浮き上がって見えた。周りより抜きん出て背が高く、凛とした笑顔で周囲の人間と話している彼女に、暗い何かを思わせるイメージは見つけられなかった。

 気を付ける? 吉谷さんに?

「美紗ちゃん、今日はどうもね。お先に!」
 快活な声とともに、日常の色合いと物音が戻ってきた。美紗が声のした方を見ると、吉谷が手を振りながら更衣室を出て行くところだった。