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<未完成>

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 わたし、みんなじゃなくてだいたい100人とか200人に一人ぐらいだと思うんですけど、その人の強く想像していることが自分で考えたみたいに分かるんです。今も分かってます。鏡を見ているみたいに、はっきりと。わたしは鏡に映った自分に、ただ自分を重ねればいいだけなんです。勘がいいって褒められることがあるけど、違うんです。ずるしてるだけなんです。だから口で説明してもらわなくても大丈夫です。
 大人っぽいとかクールな表情はどちらかと言えば得意な方だと思います。元々明るい性格じゃないから。そりゃあ暗くもなりますよ。まず母子家庭だし。お母さんはたまに夜働いて、昼間は何もしないで寝てばかりいて、家に帰ってこない日が週に何日もあって。わたし本名もミコなんですけど、未婚で産んだからミコだって言われたことがあるんです。母親にですよ。信じられます? その時完全に酔っ払ってましたけどそんなの言い訳にならないですよね。酔っ払ってない時なんかほとんどないんですから。
 お父さんには会ったこともないし、どんな人かも知らないんです。多分、っていうか確信に近いんですけど、お母さんにも分からないんだと思います。何回聞いたって、「外人は覚えがないから日本人なんじゃない?」って疑問形で言われるだけなんです。もう聞く気もしないですよ。お父さんが「とりあえず日本人」って、ひどすぎませんか。そんな家庭で明るい子になんか育つわけがないですよね。目が茶色っぽいからクォーターとかハーフなのかってたまに聞かれますけど、そんな訳でわたしにも分からないんです。多分違うと思います。だって、産んだ本人が身に覚えがないって言ってるんですから。
 こんな風に他人の考えていることが見えるようになったのがいつからなのか、自分でもよく分からないんですけど、ちゃんと覚えている記憶の中で一番古いのは小学校三年生くらいの時の恐竜です。
 体育の授業中、クラスの子達がどんどん恐竜に変わっていって、校庭がジュラシックパークみたいになっちゃったことがあるんです。強そうな男の子は肉食っぽい凶暴なやつに、小さい子はひょこひょこした弱そうなやつに、体は大きいけどおとなしい感じの子は、なんかそれっぽい草食のやつに、っていう風にそれぞれの見た目になんとなく似たタイプの恐竜になって、好き勝手に暴れ出すんです。当然わたしも恐竜でした。白くて首の長いぬめぬめしたやつです。校庭から見える普通の山がいきなり真っ赤な火山になって煙やらマグマやらを噴き出したりもしていました。ほんとすごい世界でしたよ。本物を見ているみたいにリアルでした。
 誰かが考えた想像の世界を見ていることは、その時にはもう分かっていたんだと思います。だからわたしは男の子を探しました。男の子ってだいたい恐竜が好きじゃないですか。一年生の教室の窓からじっと校庭を見ている男の子がいて「あの子だ」と思いました。
 そんな時って、恐竜の世界と現実の世界が両方とも見えるんですよ。最初はテレビの電波を乗っ取られたみたいな感じでいきなり現れるんですけど、頭の中が全部それになるわけじゃなくて、――ほら、音はいっぺんに聞こえるじゃないですか。これってわたしだけじゃなくて、みんなそうでしょ? 音楽を聞いている時に誰かに話しかけられても、音楽はずっと聞こえてるじゃないですか。話をし出したらメロディーや歌詞は追えなくなるけど、音楽自体が聞こえなくなるわけじゃない。話を聞いている振りをしながら、音楽しか聞いていないことだってある。そう、音だ。見えるけど、音に近いかもです。最初は大きい音にびっくりしても、なるべくそれを聞かないようにして我慢していれば、いつかは終わる。
 だからその時も地面を見ながらじっとしていたんです。そしたら先生にどうしたのか聞かれて、つい「頭の中から恐竜がいなくなるのを待ってる」って言っちゃったんですよ。そしたら親が呼ばれたり、呼ばれた親が面倒くさがって来なかったりして、結局お婆ちゃんが来てくれて。その時にお婆ちゃんに最初に言われたんですよ。頭がおかしいと思われるから、このことは人に言っちゃダメだって。
 その男の子の妄想はそれきり一度も見なかったです。次の体育の時にはいませんでした。席替えの時期までずっと空席だったから、心に何か問題があるような不登校の子だったのかも知れません。あの世界を見たら、みんなそう思うんじゃないかな。楽しい妄想ではないんです。最後にものすごく大きな恐竜が出て来て、みんなをぐちゃぐちゃに踏み潰してましたから。
 その後、五年生くらいになると、女子の妄想をよく見るようになりました。普段は何も感じられない普通のクラスメイトが、その時だけ溜まった電気を出すみたいな感じでビリビリって見せてくるんです。
 例えば、人気のある男子がいきなりキスして来るイメージとか、アニメの美少年キャラが突然現れて「君ならやれるよ。ファイト」って励まして来るとかそんなのが、ふっと浮かんですぐに消えるんです。小学生って女の子の方がませてますからね。そんなことを強く考えている子がいるんです。この手のやつはすぐに慣れました。わたしだって女の子ですから、気持ちが分からないでもなかったんで。見えてもなるべく気にしないようにして、見えない振りですよ。ああ、この子はあの子が好きなんだなって分かっちゃっても知らない振りです。今じゃ、こんなのは見えるうちに入りませんけど。音で言ったら、マナーモードにした携帯電話のバイブ音ぐらいのものです。ちょっと分かりにくかったですかね。
 中学生になってからは、極力目立たないようにしてました。一番目立たないと逆に目立っちゃいそうだったから、クラスで五番目に目立たない女子になることを目標にしてました。もし目立たない女の子の役をリアルにやったら、誰よりも上手く出来る自信がありますよ。そもそも目立たない役なんて、役として成立しないかもですけど。
 わたしみたいに人の頭の中が見えちゃったら、きっとみんなそうなると思いますよ。思春期の女の子の悪意は半端ないんですから。それに中学ぐらいになると、今度は男子の方も変になって来るじゃないですか。男の人ならもう分かると思うんですけど、中学以降に一気に増えたのが男子のエッチな妄想なんです。男の妄想はリアル過ぎてヤバいんですよ。今までそんなんじゃなかった子が、急にそうなるんです。それでその後、どんどん知識が増えて、どんどんリアルになっていくんです。だからなるべく男子には近付かないようにしていました。当たり前ですけど、ぜんぜんモテませんでしたよ。
 偏差値の高い高校に行けば、いきなりアダルトビデオチャンネルに頭をジャックされることもないだろうと思って、目立たないように少しずつ偏差値を上げて、まあまあの公立高校に入りました。それなりに希望とか持って入ったんですけど、そもそも偏差値とそういうことはあんまり関係ないみたいですね。そうでしょ?
作品名:<未完成> 作家名:新宿鮭