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亨利(ヘンリー)
亨利(ヘンリー)
novelistID. 60014
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聞く子の約束

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 それから最近になって、仕事中のおしゃべりで英語検定の話が出て、キクちゃんのことを「大学でお世話になった、仲のいい職員さん」として思い出したという訳だ。どんなつもりで接していたのかなど、恐ろしいぐらいに忘れてしまっていた。
 その時不意に不安感に襲われて、彼女との関係に何か自分自身で納得しきれていないことがあると思い、当時を振り返って二〜三日、キクちゃんと過ごした日々を徐々に思い出してきて、彼女が私の人格に大きな影響を与えていたことに気付いた。感謝して止まないはずの彼女に一方的に連絡を絶ち、その申し訳なさから、記憶からも消し去ろうとしていたのだと気付いたのだった。

 そのうちにとんでもない忘れ物を思い出した。取るに足らない約束、あのテディベアのことだ。あの時は、
(裁縫なんかしそうに無いのに、なんでこんなぬいぐるみを作ってくれたのかな?)
と思ったけど、あれを渡された時に、確かキクちゃんはこう言った。

「このお腹に手紙入れてあるけど、絶対に見ちゃだめ。心を込めて縫ってあるから」

 私はぬいぐるみを大切にしようと思って、その約束どおり中から手紙を取り出していないことを思い出したのだ。
 あのテディベアは引越しの際に捨てたかもしれない。いや、実家に持って行って納戸に片付けたに違いない。長いこと見ていないしもう残っている可能性は低いが、どうしてもその手紙が見たい。あの頃から私は大人になり、どのような内容が書かれていようとも冷静に受け止められる。キクちゃんがあの頃、私をどう思っていてくれたのか、分かるような気がする。探しに行こうと決意した。

作品名:聞く子の約束 作家名:亨利(ヘンリー)