聞く子の約束
エピローグ
ゴールデンウィークに家族を連れて実家に帰る予定だった。でも仕事が忙しく帰省することができずにいた。それで別の週末に帰りたかったのだが、大した用も無いのに帰ると妻に不信がられると思い、なかなか行動できずにいて、その間にこの文章を書き留めていたら、段々と気持ちが昂ってきてしまい、こんなに長い文章になってしまった。
兎に角、理由を付けて一人で実家に帰ることにした。
実家の納戸の埃まみれのダンボールの山の中に、数々の交際相手との思い出の品ばかりを詰めた箱が保管されていた。女々しい性格が幸いしてか、これらを捨てずに残していたのだ。
その箱を開けると、手編みのセーターや写真などが詰められていた。セーターはウールだったのか、大分劣化していて引っ張るとブチブチと切れてしまうほどだった。すぐその下に例のぬいぐるみを見付けることができた。
ぬいぐるみは化学繊維で結構丈夫だったが、ペチャンコになっていた。大きさは20センチくらいで茶色をしていたが、思っていたより明るい色だったのは色あせのせいだろうか。
お腹を探っても何も入っている気配は無かった。ハサミを持っていなかったので、手で引っ張ってお腹を裂いてみたが、糸が硬くて僅かしか解けず、そこから小指を入れると小さな内容物があった。それを中綿と一緒に引き出すと、ビニールに巻かれた「小さな紙切れ」を取り出すことができた。古いデザインの小さなメモのような用紙だった。
その文章を一目見て、呼吸が震えた。間違いなく、懐かしいキクちゃんの字だった。瞬間的に大学時代の自分に戻ったような気がして、キクちゃんが楽しそうに話す声を思い出して、目頭が熱くなった。
当時のキクちゃんは、男性からの『プレゼント』と『貢物』の違いを力説してくれたことがあった。
「・・・私がいろんな男の人から貰っているのは、単なる貢物で、プレゼントじゃないのよ。きっと貢いでくれる人は、結婚したらもう何もくれなくなると思う・・・」
『聞く子』はちゃんと伝えようとしていた。そして、その文面は・・・