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亨利(ヘンリー)
亨利(ヘンリー)
novelistID. 60014
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聞く子の約束

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 この頃はキクちゃんに彼氏がいないだろうと思っていた。なぜかというと、家に電話するとまた留守の確率が減ったからだ。でも本命ではないにせよ、男の影を感じる時はあった。僕自身がしょっちゅう彼女と一緒にいる訳ではないので、僕の方こそ間男的な存在だった訳だけど、肉体関係が無いのでそうとも言えない。
 キクちゃんもそろそろ、真面目な付き合いをしないといけない年頃だったはず。彼女にとって、
『僕は一体何なのか』
『たまにとは言え、なぜ特別扱いしてくれるのか』
『僕のことを好きでいてくれたのか』
僕は何でもキクちゃんに話していたのに、これらの質問は怖くてできなかった。結局最後まで、この答えは聞けなかったのだが、大人が遊び相手に選んでくれるほど、僕は優秀な男ではない。でも、ただ単にバブル期に多かったアッシーやメッシーといった悲しい取り巻きでは無く、キクちゃんの一番のお気に入りペットだったと自覚していた。

(もし、積極的にキクちゃんにアタックしていたら、どうだっただろう)そんなことを当時も考えたことはあったけど、それまでの関係を崩したくない気もしていたし、その他に付き合っていた女性関係を整理する必要もあった。だから現状維持が最良と結論付けていたのだと思うけど、銀行に就職すると決めた経緯からも、キクちゃんとの『逆玉の輿』なんかをイメージしていた記憶がある。しかし、彼女のお家柄を考えれば、そんな事は不可能に違いなかったのに、僕は単に年の差が無ければと悔いていた。
 今から客観的に考えればその時の状況は納得できるのだが、主観的なことを言えば、(お互いに、ちょっと遠慮し合っていたのではないか)とも思えてしまう。だから核心的なことは、一切話さないままでいたのかもしれない。
 「貴久子」は正に『聞く子』で、僕のことは何でも知りたがったのに、自分の本心を伝えるのには、臆病な性格だったのかもしれない。

作品名:聞く子の約束 作家名:亨利(ヘンリー)