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亨利(ヘンリー)
亨利(ヘンリー)
novelistID. 60014
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聞く子の約束

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 そんなキクちゃんでも、僕との肉体関係をきっぱりと拒否したのは、僕が子供過ぎることに対してのモラルからだったのだろうか。年の差を無視しては付き合えないのだと実感して、(僕に望みはないな)と思い、キクちゃんに対する気持ちも少し冷め始めていた。
 キクちゃんは、ぐいぐい引っ張ってくれる男性が好みなのだと思うが、ぐいぐい行くと嫌がる性格でもあったと思う。理想のストライクゾーンが狭すぎる。
 こっちからの誘いをわざと断ったり、焦らされたりすることもよくあった。でもそんな時もいつも笑顔で意地悪するので、嫌がっているようには感じなかった。だからまたぐいぐい行くことができた。でも彼女のほうこそ僕のことを、ぐいぐい引っ張ってくれていたことは間違いない。

 僕とキクちゃんとの関係に、何か隠し事があると疑っていた友人たちの中には、篤志のように、
「卒業してから付き合いだすのか?」
と、勘ぐっている者もいたが、いつもの通り全否定して、飲みに行っただけとか、アルバイトでお世話になってるだけとか、差しさわりの無いことだけ話しておいたのだが、内心満更でもなかった。
 キクちゃんのことを少し自慢したくて、
「合コンしようと思えばできるぞ」
その程度のことは話したことがあり、その話に篤志やジュンはすごく乗り気だったが、あのお姉さん方のことなので、実現はさせなかった。

 大学祭の夜店で一度、後輩彼女の清美を含めて、キクちゃんと四〜五人で話す機会があったが、それを疑われるような会話はまったくしなかったのに、あとで清美が、
「あの人、ヒロちゃんに気があると思う」
と言ったのは怖いと思った。

 電話オペレーターの茉実とは、無謀にも大学の食堂でランチを食べる約束をしてしまったことがあった。篤志とジュンは僕の二股交際を知っていたので、茉実が来た時に話を合わせてくれたが、清美に出会わないかハラハラヒヤヒヤだった。そこへキクちゃんが、そのオペレーター彼女の顔見たさで話しかけて来た時は、友人たちが凍りついたのを感じたが、僕は逆に安心して、キクちゃんに茉実を紹介した。そうすると友人たちは、『?????』と、なってしまっていた。僕とキクちゃんの関係が、まったく理解できなかったのだろう。

 妻には、かつてお世話になった職員さんとしての存在は話したが、僕のかすかな恋心は話していない。実際に恋心があったのかと言えば、また微妙なところで、年に5〜6回二人だけ会ったけど、あの夜のでき事以外は何も無かったから、後ろめたいこともそれほど無い。客観的には、とてもお世話になったお姉さんに過ぎなかった。

作品名:聞く子の約束 作家名:亨利(ヘンリー)