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亨利(ヘンリー)
亨利(ヘンリー)
novelistID. 60014
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聞く子の約束

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「不測の事態に冷静に対応できるように」みたいなことをよく言われたけど、その頃の僕には難しいと感じていた。
 クラブの後輩で交際相手の清美が、女友達同士でスキーに行ったことがあって、その時の写真を見せてもらったという話をしたら、
「写真は何枚あった?」
とキクちゃん。
「15枚くらいかな?」
と答えると、
「怪しいと思わないの?」
当時はフィルム写真で、撮影枚数は大概36枚撮りだったのに、15枚しか撮らないのは変だと言うのだ。残り20枚くらいは見せられない写真の可能性があると知った時は、動転しそうになったが、
「気付いてないふりしておくのがベスト」
と諭された。

 逆にもし、僕の浮気が交際相手にバレそうな時は、キクちゃんが、
「私と一緒にいたとか、仕事を手伝ってもらっていたとか、口裏を合わせてあげる」
と言ってくれた。まあそんなことにはならなかったが、女同士でもよくこういったアリバイ工作を行っているのだと言う。
 キクちゃんの部屋がすごく片付いていて男の痕跡がないのも、他の男が来た時の為だった。
 こんなふうにキクちゃんのずるいところを、様々教えてくれることがあった。僕も浮気性なので、人のことをとやかく言える訳ではないが、(女は怖いなぁ)とつくづく思った。
 誰にどんな嘘をついたことがあるかを、二人で打ち明け合ったりしても、キクちゃんとは安心して付き合うことができた。やはり歳が離れていて、お互いに踏み込まない関係というのがよかったのかと思う。
 キクちゃんと知り合えたおかげで、女性に対する免疫というか、抵抗力が抜群に上がった。おかげで、『かわいい女性は、皆ずるいものだ』という印象はこの頃から持っている。女性はそんなものだと理解した上で、知らないふりをして付き合っていくのが大人だと思った。

作品名:聞く子の約束 作家名:亨利(ヘンリー)