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亨利(ヘンリー)
亨利(ヘンリー)
novelistID. 60014
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聞く子の約束

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 彼女は試験会場に、ワインレッドのセダンに乗って来ていたので、それに同乗させてもらい、5分ほどのところにある市民公園前のイタリアンレストランに入った。
 店にいる間は彼女に気に入られようと、あの手この手で楽しませようとした。お手拭でペンギンを作って、さりげなく置いて、彼女の様子を見たり。
(彼女)「・・・・・・」
特に反応なし。
 ストローの紙袋を開いて細かく折り重ね、女の子の形に千切って広げて、たくさんの女の子が手をつないだようなモールテープを作り、彼女のグラスの水滴にくっ付けて巻いてみたり。
「うわっ。可愛い。どうやって作るの?」
「細かく千切るのは難しいんで、星形にすると簡単ですよ」
そして、彼女の作った星が連なったテープは、僕のグラスに巻いてもらったり。
 女子受けがいいコインのマジックなども小賢く披露した。
「すごーい。マリックみたい」
 この頃は女子にモテたい一心で、いくつかの小技や気の利いたトークを身に付けていて、日頃から数々の女子学生を相手に練習を繰り返していたようなものだったので、森山さんにもウケがよかった。
「こんなことばっかりして見せてるんでしょ。このペンギンとかも(笑)」

 彼女の顔をまじまじと見たのは、この時が初めてだった。それまでは彼女の笑顔に少し照れくさい気がして、わざと目線を逸らしながら話していたのだが、この時の僕は、(彼女に気に入られているに違いない)という気がして、堂々と目を見て話すことができた。
 そんな最中、近くにある観光客に人気の神社の話になった。
「僕、短大で『フリーガイドクラブ』に入っていて、その神社で外国人に声をかけて、英語でガイドしながら英会話の練習をしてたんですよ」
「そのクラブ知ってる。それ面白かったでしょ。可愛い娘を狙ったりして」
「えー? そんなの違いますよ。ちゃんとルールがあって、男子は男の人にしか声かけちゃダメなんです」
「そうだったの? なんだか硬派なクラブね」
「でも、その後も外人さんとご飯食べに行ったりして、楽しかったですよ」

 それで知り合った外国人に紹介された、近くのターミナル前にある、感じのいいアイリッシュパブの話題になっていった。そのパブの客の半分は外国人、気さくに他人同士が語り合うとても楽しいところで、僕も友達を連れてよく遊びに行っていたのだが、彼女はその店のことは知らなかった。
「それなら、また今度一緒に行きましょうか」
ほとんど社交辞令で、そういう話をしたつもりだったが、彼女の方から、
「じゃ、今日行きたい」
と言い出されて面食らってしまった。

作品名:聞く子の約束 作家名:亨利(ヘンリー)