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亨利(ヘンリー)
亨利(ヘンリー)
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聞く子の約束

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 そして、春。
 安全策を取って、2回生への編入学試験に合格し、晴れて大学生となった。編入試験は、苦手だったスペイン語の参考書を、一冊丸ごとすべて暗記することで突破できた。そのやる気のきっかけは、あの時の職員さんの笑顔のアドバイスだったことは間違いない。

 でも1年浪人して短大を卒業、さらに編入学でも1年ダブって留年したような形になってしまったので、同級生は2歳年下ばかり。この年頃の2歳差はかなりのギャップを感じて、すぐには仲良くなることはできなかった。
 短大時代から1年以上付き合っている専門学校生の彼女の知子がいたが、大学キャンパスでは淋しい思いをしていて、(ここ(大学内)で、新しい交際相手を探そうかな)などと、新生活に希望を持って浮かれていた反面、同じく編入学した顔馴染みの篤志とジュンとつるむことで、僕の大学生活はスタートしていた。

 そんなある日、学生課の前の掲示板に貼られていたアルバイト募集の広告が目に付いた。英語検定試験の試験監督補助の仕事で、時給がかなりよかった。それですぐに応募しようと担当者を確認すると、「森山」と書いてあった。
(きっと、あの人のことだ)
 事務所に入ってアルバイトの申し出をすると、やはり森山貴久子が出てきた。僕を覚えてくれているかと期待しながら、自己アピールたっぷりに挨拶をした。
「こんにちは。その節はいろいろとお世話になりました」
「あっ木田君、おめでとう!」
彼女はすぐに僕が編入学試験に合格できたことに気が付いて、嬉しそうに少し跳びはねて言ってくれたので、とても感激した。
「ありがとうございます。僕もやっと大学生になれました(笑)」
なんて話し易い人なんだと、改めて思った。
 その後、面接でアルバイトにも採用されて、当日の会場や集合時間を聞いて帰った。

 アルバイト当日、とても晴れた気持ちのいいこの日、僕は試験会場である大学付属の専門学校にバイクで行った。
 集合場所の教室に着いた時、意外なことに、そこにいたのは森山さんだった。
「・・・えへへ。私、試験監督だから」
しかも僕の担当の試験会場を、自分と同じ教室に振り当ててくれていた。驚きと同時にわくわく感が込み上げて来て、何かドラマが始まる予感さえした。

 教室では彼女は前方に座った。キャンパスで見る印象とは違い、すごく若いのに毅然とした態度だった。
 僕はその対極の後方に立った。シーンと静まり返った会場で、向かい合わせになる形だったので、彼女の顔を見ると目が合いそうな気がして、試験を受けている人達の監視に徹した。
 そうして、2時間ほどで午前の試験が終わった。その後、約2時間の昼休みがあり、また2時間ほどの午後の部の試験が待っている。

 廊下を歩いて待機室に移動していた時、彼女から、
「木田君。編入合格祝いにご馳走してあげるから、外に食べに行こう」
とランチに誘ってくれた。僕は弁当を持って来ていたが、その言葉に甘えることにした。
 ほとんど面識の無い僕に、まるで以前からの知り合いのように接してくれるので、彼女に対しての好意は、益々大きくなっていった。

作品名:聞く子の約束 作家名:亨利(ヘンリー)