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亨利(ヘンリー)
亨利(ヘンリー)
novelistID. 60014
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聞く子の約束

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 翌朝ゴールの大学に着くまで本当に孤独で辛かった。ゴール間際での実行委員会の女子の並走がとてもありがたかった。結局22時間55分かかってゴールした。
 このことをキクちゃんはあまり興味が無かったのか、全くと言っていいほど、労っても褒めてもくれなかった。
 約23時間、この間キクちゃんは僕のことなど忘れていたに違いない。だから、
「キクちゃんは、24時間中、23時間は笑っている」
と、イヤミを言ったら、
「なんでそんなことするの?」
と、逆に冷めていた。
 この時は(そっちこそなんで?)と思っていたけど、きっと付き合っていた彼女も、応援してくれた友人も(馬鹿な挑戦)と思っていたに違いない。それをはっきり言うのがキクちゃんだ。
 僕はこの後の人生でどんな困難があっても、このマラソンを思い出し、避けて通ろうと思った。

 そのマラソンからしばらくして、僕は疲労で抵抗力が落ちたのか、帯状疱疹に罹って1週間以上寝込んだ。きっとキクちゃんには、「ほら見なさい、バカ」と怒られると思って、連絡できなかった。
 しかし、授業には出られず、ゼミの課題提出に間に合わなくなってしまった。それでゼミを追い出されて、卒論が書けなくなっては大変だ。体調回復後ゼミに出席したら、出欠の名簿から削除されており、教授に事情を説明し、何とか残してもらえたものの、課題はほとんど手付かずだった。

「卒業できないかもしれない」
とキクちゃんに泣き付いたら、慌てて僕の取得単位を調べてくれ、必修科目さえ落とさなければ、卒業に必要な単位が奇跡的に足りていることが判明した。
 短大卒から大学2回生へのダブり編入だったので、他の学生より1年分多くの授業で単位を取っており、卒論の単位は必要ないことが判ったのだ。
 通常留年でダブるのは単位が足りないからなのだが、僕は真面目に授業を受けていたので、卒論無しでも卒業できる珍しい学生だと、キクちゃんも大笑いしていた。
「ヒロ君て、本当に面白いね」
「(汗)・・・・・・(苦笑い)」

作品名:聞く子の約束 作家名:亨利(ヘンリー)