聞く子の約束
翌朝ゴールの大学に着くまで本当に孤独で辛かった。ゴール間際での実行委員会の女子の並走がとてもありがたかった。結局22時間55分かかってゴールした。
このことをキクちゃんはあまり興味が無かったのか、全くと言っていいほど、労っても褒めてもくれなかった。
約23時間、この間キクちゃんは僕のことなど忘れていたに違いない。だから、
「キクちゃんは、24時間中、23時間は笑っている」
と、イヤミを言ったら、
「なんでそんなことするの?」
と、逆に冷めていた。
この時は(そっちこそなんで?)と思っていたけど、きっと付き合っていた彼女も、応援してくれた友人も(馬鹿な挑戦)と思っていたに違いない。それをはっきり言うのがキクちゃんだ。
僕はこの後の人生でどんな困難があっても、このマラソンを思い出し、避けて通ろうと思った。
そのマラソンからしばらくして、僕は疲労で抵抗力が落ちたのか、帯状疱疹に罹って1週間以上寝込んだ。きっとキクちゃんには、「ほら見なさい、バカ」と怒られると思って、連絡できなかった。
しかし、授業には出られず、ゼミの課題提出に間に合わなくなってしまった。それでゼミを追い出されて、卒論が書けなくなっては大変だ。体調回復後ゼミに出席したら、出欠の名簿から削除されており、教授に事情を説明し、何とか残してもらえたものの、課題はほとんど手付かずだった。
「卒業できないかもしれない」
とキクちゃんに泣き付いたら、慌てて僕の取得単位を調べてくれ、必修科目さえ落とさなければ、卒業に必要な単位が奇跡的に足りていることが判明した。
短大卒から大学2回生へのダブり編入だったので、他の学生より1年分多くの授業で単位を取っており、卒論の単位は必要ないことが判ったのだ。
通常留年でダブるのは単位が足りないからなのだが、僕は真面目に授業を受けていたので、卒論無しでも卒業できる珍しい学生だと、キクちゃんも大笑いしていた。
「ヒロ君て、本当に面白いね」
「(汗)・・・・・・(苦笑い)」