聞く子の約束
第16章 冷静な関係
あの晩のでき事から、少し冷静な関係になってしまって、甘えにくい感じがしていた。
僕は4回生になって、就職活動も忙しくなっていたが、キクちゃんに相談しても真面目に答えてくれない。
「本職でしょ。手伝ってよ」
と言っても、
「結局は、自分で決める」
これしか言われなかった。
「そうじゃなくって、OBのいる企業を教えてくれるとか、連絡先を調べてくれるとか」
「他人頼りなの?」
当時の就職活動は売り手市場のおかげで問題はなかったけど、付き合ってる彼女はいつも応援してくれていたのに、キクちゃんは冷めてるなと思い、淋しいと感じていた。でもそんな応援は何の役にも立たず、自分でがんばっている学生を何人も見てきたからこそだったのか。或いは、僕がいつもキクちゃんの言うとおりにしてしまうので、自主的に就職先を選ばせる意図だったのかも知れない。
当時付き合っていた電話オペレーターの茉実が勤める百貨店から内定をもらって、就職活動を終了しようと思っていたのに、茉実とは破局したので、急遽、就職先を銀行に変更した。それにはもしキクちゃんと付き合うことになった場合に、格好が付く職業でないといけないという思いもあった。その就職先にキクちゃんも満足してくれたようだった。
僕は秋の大学祭ではクラブやサークルで、毎年何かには参加していたが、大学時代最後の思い出として、100kmマラソンに挑戦しようと思った。
コースはゴールの大学へ向け、国道を通ってちょうど100km離れたとある駅がスタート地点。その距離をいかほどで走れる(歩ける)か、試したくなっただけだ。他にも友人数名が出場すると話していたので気軽にエントリーしたのに、結局、当日走った友人は一人もいない。
僕は42.195kmまでは走ろうと決めていたので、5時間ほどでフルマラソンの距離は走りきった。しかしその後が地獄で、足が思うように動かなくなり、信号で立ち止まればもう二度と歩き出せないような状態のまま、残り50km程を歩いた。途中で休憩して、応援に来た友人にマッサージしてもらう以外、夜中も孤独に歩き続けた。交際相手の清美に電話して励ましてもらったけど、キクちゃんは電話に出なかった。
(こんな時に遊んでいるな)と思った。