聞く子の約束
第15章 ごめんちゃい
気まずいのは、飲み会での仕打ちと、こっそりキスした事。それらはお互い様。それでも許し合えるのか、決別なのか。僕はもう全然気にしないでいようと思えるのに、キクちゃんは自己嫌悪に陥っているようだった。誰にも相談できない悩みだったので、毎日がすごく暗く感じた。
1週間くらいそのままで、関係は終わったのかと思い不安だった。話したい事は山盛りあったけど、声をかけていいものなのか分からなかったのと、彼女の表情は以前のような感じとは違って、もう冷たくあしらわれる気がしていた。
心配になって、ちょっとはニコッと挨拶をするようにした春休み直前、また大講堂のロビーにキクちゃんが座っていて、僕を呼んだ。
「どうしたの?」
僕は笑顔がうまく作れなかった。
「待ってたの」
「僕?」
「うん。謝ろうと思って」
キクちゃんも笑っていない。僕は篤志とジュンを先に行かせ、ベンチに座った。
この頃、仲のいい友人二人は、僕とキクちゃんがもうかなり親しいと分っていたので、何かこの暗い雰囲気にすんなり去ってくれたものの、キクちゃんにしては、友人の前で爆弾発言だったと思う。
人気が引くのを待つ間は、きっと関係修復の話だと思ってそわそわしていたけど、そうではなく悪い話だったらどういう態度をとればいいのか迷っていた。
「この前のことなんだけど」
とキクちゃん。
「勝手にキスしてごめんなさい」
僕は先に謝った。
「うん、いいのよ。あれは仕方なかったもんね」
「じゃ、どのこと?」
「・・・・・・」
「いっぱい有り過ぎて」
僕は目線をわざと逸らして、ちょっと強気に出てみた。キクちゃんはうつむきながら小さな声で、
「飲み会の時。全部」