聞く子の約束
静かに身を乗り出して近付き、自分の影がキクちゃんの顔に。顔の上でしばらく様子を見た。すぐ目の前にキクちゃんの唇。更に寝息がかかる距離まで近づいた。
息を止めて、軽く唇に触れてみた。それでは彼女は目を覚まさなかった。
もう一回、もうちょっとだけしっかりキスしようと再挑戦した。今度はしっかり唇を合わせたら、さすがに起きてしまった。でも僕は、どうしようかと慌てる気はなかった。そのままじっとしていると、キクちゃんは少し戸惑った様子で、わずかに顎を上げてキスを返してくれた。その後、
「もう・・・」
と小さな声で言って、横に寝返り顔を伏せてしまった。
(やったぁ!)ドキドキが続いた。僕はそれで十分満足だった。
翌日は早く起きて自宅に戻り、大学に行った。キャンパスでキクちゃんとは何も話さなかった。いつもどおりに戻ればいいと思っていたが、暫くは本当に言葉を交わさない日々が続いた。