聞く子の約束
「もうこんな時間ですね」
「明日の授業、何時から?」
「1時限目からあります」
「じゃ、もう帰る?」
「・・・僕、何しに来たの?」
「やっぱり泊まっていく?」
「・・・・・・」
「何もしちゃだめよ」
「自信ないです」
「そういう奴だったもんね。やっぱり帰れ」
「イヤ。泊まる」
「ダメ。帰れ」
「無理」
どこかギクシャクした感じのやり取りの中、キクちゃんはいつもどおり笑い始めた。
「もっと飲みたい」「帰りたくない」「ここで寝る」
などと言って粘った。キクちゃんはその時も、いやそうな顔は一切しなかった。困っているというより、むしろ楽しんでいるように見えた。
結局、キャビネットのウォッカを飲む事になり、ソファの前にもたれて、並んでコタツに入った。
僕はキクちゃんに思い切り甘えたい気分だったので、ソファの座面に突っ伏すようにもたれかかる形で横向きになって、キクちゃんを見詰めて話した。キクちゃんも同じように座面にもたれて話してる間ずっと、僕の頭を撫で続けていた。やがてホッコリしはじめ、もう話すことも無くなってきて、
「コタツで寝ていい?」
キクちゃんは、
「うんうん」
と頷いた。そうして二人一緒に寝転んで喋りながら、やがて眠くなって寝た。
・・・が、僕はしばらくして目が覚めた。キクちゃんはやや僕の方を向いて、仰向けに寝ていた。電灯は点けたままだったので、キクちゃんの可愛い寝顔がよく見えた。
(キスしたら怒るかな)と思いながらも、(怒られてもいい! 今しかない)
僕は一生忘れられない瞬間になると確信した。