聞く子の約束
第14章 忘れられない瞬間
僕には女子の部屋に入ったら、押し倒すまでの方程式があった。部屋を見渡し、男の痕跡があれば、彼氏がいることを理解しているというアピールで、
「彼氏はよく来るの?」
と敢えて聞く。
「時々」とか「まあまあ」とか
曖昧な返答が多いが、そんな答えはどうでもいい。
「なのに、僕を入れても大丈夫?」
と、ちょっと心配そうに聞くと、言い訳をする娘も多いけど、大概の女子は、
「まあいいかと思って」
と答える。そう答えるまで、質問で誘導する。
「いいか。てことは、いいんだよね」
で、抱きしめる。これでもう逃げられない。
キクちゃんにこの作戦を実行していいのかどうか、ギリギリまで考えていた。でもどう考えても、この時のキクちゃんは僕を受け入れていた。こんな深夜のプライベート空間に二人きりで、これから考えられる展開は、露骨な表現だがベッドイン以外あり得ない。
(でも、キクちゃんに対してそんなことは・・・)
僕は迷ったが、腹を決めるしかなかった。
彼女がキッチンでラーメンを探すと、1個しかなかった。それを二人で分けて食べる事にした。僕はどんぶりも一つしかない事に気付いて、やはりこの疑問が。
「キクちゃん、今彼氏いないの?」
「どうでしょうねぇ」
と、お湯を沸かしながら、ニヤニヤとうれしそうに答えた。
彼女はまったく動揺した様子を見せなかったので、この時感じていた『いない』という僕の予想はハズレているかもしれないと思った。