聞く子の約束
その後、お姉さん方は更にエスカレートして、僕の体にべたべたと寄り添ってきて、わざと誘惑の視線を投げかけてきたり、僕の頭を掴んで、胸元に押し付けたりされた。それは、僕が虐められているというより、キクちゃんへの当て付けかと思うぐらいに酷かった。
キクちゃんは、半ベソをかいたような表情をしていて、なんと僕の膝の上で右手を握ってくれて、(もうちょっとだけ、我慢して)と言っているようだった。僕はこの時キクちゃんを守ってあげられず、他のお姉さんに媚び続けることしかできなかった。
余談だが、キクちゃんが僕の手を握ってくれたのは、この日が最初で最後だった。腕を組んだり、体をもたれかけたりしてくることはあっても、手を握るのはちょっと勇気がいる行為だ。その直前に抱きしめられたりしているが、それは周囲へのアピールでしかない。この時の手を握るという行為こそ、僕に対しての気持ちを表していて、とても嬉しかった。
僕はキクちゃんに恋心を持つのは恐れ多いと考えていたが、この時は、本当にキクちゃんのことを愛おしく思った。
僕はその手を離さなかった。それからずーっと握っていたけど、キクちゃんも離そうとしなかった。僕は左手だけで水割り作りも継続していたが、右手が使えないので、キクちゃんの右手のお箸でサラダを「あーん」してくれたり、キクちゃん自身も左手が使えないので、ピスタチオを口で割って、それを食べさせてくれたりした。
僕は決してマゾではないが、冷たい表情をしながらも、優しい態度をとるキクちゃんにトキメキを感じた。なんて・・・これが俗に言うツンデレの醍醐味か。