聞く子の約束
第12章 悪夢の飲み会
この日のキクちゃんは、初めからいつもと全然違っていた。僕をコントロールすること無く、優しくフォローしてくれるようなことも無く、猛獣の檻に放ったらかしにされているような感じで、他のお姉さん方のなすがままにしていたことに、違和感を覚えた。それでも多少ニコニコしていたが、あまり喋ってくれなかったし、僕が他のお姉さんに合わせようと、一所懸命になっていたので喋る機会が無かったのかもしれないが、キクちゃんは次第に機嫌が悪くなっていったようだ。
そもそも座った位置が悪かった。僕は女性の右に座りたい派だったのに、キクちゃんも右に座りたい派だったために、僕はいつもキクちゃんの左に座らされていた。キクちゃんは右側のお姉さんと話していたので、僕は知らず知らずのうちに、左側のお姉さんたちとばかり話してしまっていた。
「水割り作って!」
と少し強い口調でキクちゃんが言った。明らかに怒っている。
僕はハッと我に返り、
「はいは〜い」
と焦りながら水割りを作り始めたら、左側のお姉さんが
「ヒロ、こっちも(作れ)!」
と言うと、キクちゃんは、
「だ〜め。ヒロは私のオモチャだもん」
と言って、僕を強く抱き寄せた。
(あ〜あペット確定か)
僕は彼女のアクセサリーだということを自覚していたが、この時は悲しいと言うより、初めて抱き寄せられたことの方が嬉しくて、自分の気持ちがよく解らなくなっていた。
その後はステージでカラオケを歌わされたり、冷やかされたり、からかわれたりで、何度も一気飲みさせられた。その最中もキクちゃんは機嫌がよくならず、ことあるごとに僕にちょっかいを出して、ポッキーが折れるくらい僕の右の頬を突き刺したり、氷を襟から入れてきたり。
「叩くよー」
と反撃すると、ハイヒールでお腹を蹴られて、
「ミニからパンツが見えてますけど(笑)」
こんなやりとりが続いた。