聞く子の約束
僕の左隣が一番よく喋る人だった。
「ヒロは学生でしょ。バイトは何してんの」
「中学生の塾で英語教えてます」
「どれくらい稼いでんのよ」
「月に12〜3万くらいです」
「ソコソコ稼いでんじゃん。じゃ今日は奢りね」
「え? え、えー? こんな高そうな店、無理です!」
「ぎゃはははは」
全然、遠慮のない人だった。
「あなた彼女いるの?」
「ええ、まあ一応」
「どんな娘なの?」
「え? どの娘?」
僕は二股交際をいじられるのかと思ってしまった。
「どの娘って。あんた何人と付き合ってんのよ」
てっきり、キクちゃんはもう僕の二股をばらしてると思っていた。
「キッコ。こいつ最低野郎かも!」
「いえいえ。そんなことないです。聞き違えただけです!」
と必死になった。
お姉さんたちの話の内容は、他愛の無いないものばかりだけど、少々失礼な言葉遣いだった。相手が年下とかなら適当にあしらえばよかったけど、キクちゃんの手前、そんなことはできるはずもなく、我慢して盛り上げ役になるしかなかった。
そうしているうちに、僕が呼ばれた理由がなんとなく理解できて来た。この会は、キクちゃん自慢の『若いペット』のお披露目の場だと気付いたのだ。