聞く子の約束
第6章 頼りになる女性
僕は2回生に編入学したので、親に学費の負担を1年分多くかけることになる。
でも総長奨学金というのがあって、それは首席レベルの学生に支給される1種とは別に、面接でアピールして合格すれば、一部の返済は卒業後に必要だが貸与される2種があった。
僕は短大時代に後援会奨学金を受けていたが、不埒にもそのお金は乗用車の購入に使ってしまっていた。
(また新たに奨学金を申請しても、通るはずは無いだろうな)と思っていたが、キクちゃんが、
「面接受けてみればいいのに」
と言ってくれた。僕は、(おじいさんの奨学金なので、裏から手をまわしてくれるのか?)と思ったものの、さすがにそれはできないとのこと。代わりにキクちゃんは、いろいろ聞いて回ってくれて、面接でされる質問の事前情報や、好印象なトークをいろいろと教えてくれたり、家族構成による教育費の負担や、1ヶ月にアルバイトできる時間、どんな研究テーマにお金がかかるのか等、具体的な内容まで考えてくれた。
面接官が短大の時に交流の深かった先生になると、教えてもらえていたことは、一番役に立った。その先生は授業中、ほとんど英語で話す人だったので、質疑応答が英語でできるように準備しておいた。実際にはその英語の準備もキクちゃんが手伝ってくれたので、その面接を有利に運ぶことができ、本当にラッキーなことに、奨学金2種が貸与された。
全部キクちゃんのおかげだと大げさに感謝すると、彼女は当然という顔をしていたけど、僕はこの頃からキクちゃんのことを、すごく頼りになる人だと思い始めていた。
しかし、周りより2年も遅れのある僕は、将来何になりたいのか、どういう道に進みたいのか、まだ決められずにいたので、非常に不安な気分だった。学生同士でこのような会話をしても、(将来は、普通の会社に就職できたらいいや)と言うぐらいに考えている者がほとんどだ。しかも周りは年下ばかり、僕には年上の先輩さえもいなかった。
大学生活ではほとんど学生主体で物事が進んでいくので、先生方のお世話になるということもあまり無かった。そんな中、相談相手として頼りになるのはキクちゃんだけだったので、知り合えて本当によかった。