かいなに擁かれて 第三章
ドアが開き切る前に、徹は玄関に傾れ込んだかと思うと、壁に寄りかかりやっと立っている魅華の髪を強く掴み引き下げた。前のめりになると、鋭く折った徹の膝が魅華のみぞおちに食い込んだ。
『――ぐぅっっ』息が出来ない……。
魅華の涼しげな切れ長の瞳が見る見るうちに充血してゆく。その場に崩れ、冷たい床に頬を付けうなだれる。
『それくらいで大袈裟に倒れてるんじゃねえよ! 起きてさっさと何か作れ。腹減ってんだよ!』
廊下に倒れ、うずくまる魅華を跨ぐように徹はリビングへ入っていった。
リビングと対面式になっているキッチンの冷蔵庫を乱暴に開け、無造作に缶ビールを取るとその場で一気に飲んでいる。
片手でみぞおちをおさえ、前屈みになりながら、もう片方の手で壁伝いに身体を支え、リビングの入口に立ち、魅華はそんな徹を見つめた。
『なんだよ! なんか言いたいことあるなら、言ってみろよ!』
『…………』
『お前のそういうところがムカつくんだよ! 早く何か作れよ』
言い放つと徹は飲み干したビールの缶を握り潰し、魅華に向かって投げつけると、ソファに寝そべった。
切れ長の瞳から零れ落ちそうになるものを魅華は手の甲で拭いながら、開け広げられたままの冷蔵庫の前に立つと、朝食の用意を始めた。
フライドエッグにベーコンと野菜を添えて、テーブルに置く。
コーヒーを入れ、トーストしたパンを別の皿に置くと、魅華は徹をみた。
いつの間にか、ソファで寝入っている。
『ゴハン、できたわよ』
『…………』
薄く眼を開いた徹は何も言わずにテーブルの前に座った。
手をつけず、目の前にあるそれを徹はじっと見つめていた。
『こんなもん食えるか!』
テーブルクロスを引き上げて立ち上がると、座っていた椅子を蹴り飛ばした。
食器が激しく床に砕け散る。
肩を震わせて拳を握り絞め、膝を震わせながら徹は云った。
『なんか言ってみろよ! え! 言えよ! お前もオレをバカにしているんだろう!』
床にうずくまり砕け散った食器を拾い集める魅華の髪を掴み上げ、徹は拳を魅華の頬に浴びせた。唇が切れ、魅華の頬が見る見るうちに青く腫れあがってゆく。徹の指には幾本もの魅華の髪が絡みついていた。
(いつものことだ――。――いつの頃からだろう。もう――、慣れた。ワタシに何を――言えというのだ)
作品名:かいなに擁かれて 第三章 作家名:ヒロ