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かいなに擁かれて 第二章

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あの夜からもう一ヵ月近くになる。一緒に過ごしたあの夜以来、何通かの短いメールのやり取りがあっただけた。
交差点の手前で、流しのタクシーを拾う。行き先を告げ、再び携帯を開いた。
送信5月23日23:18〈しっかり食べているか? 無理するなよ〉
着信5月23日23:49〈うん。ありがとう〉
送信5月24日22:36〈大丈夫か? 何かあったら何時でも連絡しろよ〉
着信5月25日00:18〈大丈夫。大丈夫〉
送信5月25日08:03〈昨晩遅かったな。体調崩すなよ〉
着信5月25日16:23〈ありがとう。心配しないで大丈夫だから〉
 あの夜を境に、魅華から連絡をよこしたことがない。そのことに苛立ちとも不安とも言い難い感情が裕介の中で頭をもたげ始めていた。かつてこんな気持ちを抱いたことはなかった。

 タバコを灰皿にもみ消して、デスクの時計をみると午前一時を過ぎていた。
納期を気にしながら仕事を進めるが、どこか薄ら寒い感覚が頭をもたげて捗らない。
これでは決まったスケジュールに支障を来す。焦る。だけど、一向に捗らない。
こんな焦りはこれまで一度も感じたことがなかった。
仕事には自分の技術には、絶対的な自信を持っていた。その自信が彼のプライドで裕介を支える全てでもあった。
裕介はふと思う。(設計という仕事は見た目より過酷な仕事かも知れない)
今更何を言っているのか――、仕様書に再び眼を通す。そこにある要求事項を眼で追いながら思考は別のところにあることは嫌になるくらい分かっていた。
離婚――。それはもう随分と昔に起きた出来事のように思う。あの時から裕介は二度と恋愛感情を抱くとか、ましてカノジョなんて、誰かを好きになることは生涯もう有り得ないと思っていた。
それなのに――どうして、こんなにも魅華のことを。裕介は溜息をもらす。
(だめだ。仕事なんて手に付かない――)
パソコンの電源を落とし、裕介はタバコに再び火を点けた。
 

 静まり返った深夜、神社の御神木を魅華は見上げた。
(この樹は何時の時代から、どれだけ沢山の人たちを眺めてきたのかな。そして、どれだけの人たちがこの樹を見上げてきたのだろう)
魅華はこの場所がすきだ。
こんなにも雑踏に塗れた街中にあるというのにここだけは別世界だ。
ここにくると心が洗わるような気がする。
作品名:かいなに擁かれて 第二章 作家名:ヒロ