かいなに擁かれて 第二章
自分に憑いた一切の邪気が清められ、まるで古くなった衣を脱ぎ捨てて、新しく生まれ変われたような感覚を覚えるのだ。願を掛けるとか、念じるとかそんな崇拝的な意味をもってこの場所を訪れるのではない。
しいて言えば、この場所に感じる『無』が何よりも心地良いのだ。
自分の意思には関係なく、視たくないモノ、聞きたくないモノが、余りにも多く――届きすぎる。
耳が痛くなるような静寂の中で、携帯の振動音が無を破る。
バッグの中の携帯を開いてみた。
着信6月5日01:43〈元気にしているのか?〉
裕介からだ。そのまま携帯を閉じる。
(嫌いになったわけではない。煩わしいわけでもない。カレの気持ちを弄んでなんかいやしない。その逆だ。今すぐにでもカレの声を聴きたい。そして腕の中で眠りたい。苦しいほど、ちぎれるような想いを……、だけど……)
握りしめた携帯をバックに戻し、魅華は、御神木をもう一度見上げると踵を返した。
次章へつづく
作品名:かいなに擁かれて 第二章 作家名:ヒロ