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かいなに擁かれて 第二章

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 クライアント先での会議が始まって既にもう二時間が過ぎていた。一向に纏まらない。
「だから何度も説明しているように、いくらお宅たちが責任を負うっていうことだとしても、設計者として納得できないことは出来ないってことさ。理解してもらえるよね。予算や工期のことの云々じゃぁないのだ。オレが気に入らないのは上辺だけ取り繕って、中身が全くお粗末だ。て、ことだ。予算が厳しいのはよく理解している。オレはプロだぞ。コンセプトをしっかりと持ったモノをその厳しい予算内にきっちりと、いや、何割かのコストダウンが出来る設計をしてやるって言てるじゃないか。それでもコンセプトも何も無く、ただ上辺だけを取り繕ったモノを作りたいのなら、そんな設計ならオレじゃなくその辺の駆け出しの連中に絵を描かせればいいじゃないか。オレがやるまでもない。無意味だよ」
 どうしても裕介にという連絡に、今日出向いたのだが、そこで見せられた仕様書にうんざりしていた。こんな依頼なら出向くまでもなかったと。
「いやぁ……、榊先生にどうしてもお願いしたいのですよ。というのは実は……」
 と、営業部長がそこまで言うと、裕介は言葉を遮った。
「申し訳ないが、お断りする。が、もし、オレの思ったようにやらせてくれる気になったら、いつでも連絡をしてくれ。失礼する」
 榊裕介は、自分の方から頭を下げて誰かに平伏すようなことはこれまで一度もない。
それが彼のプライドだ。
プライドを得るために相応しい苦労を人の何十倍も何百倍もいや何千倍も積み重ねてきたと自負している。当然だと考えていた。
故に、一流と呼ばれる巨大な企業に勤めていても、その中の歯車のひとつに成り切れなかった。協調性や妥協性が無い訳ではない。
しかしこと技術に関しては、その絶対的な技量の前に、技術とは無関係な自分の意に反した制圧された力関係が微妙に作用する枠に繋ぎ留められることを極端にまで強く拒んだ。
要するに企業人には成り切れなかったのだ。
自分の意に背き、それに成り切る理由を見出すことが出来なかったのかも知れない。
自分で築きあげた自らのプライドという世界の中で、絶対的な自信を得た代わりに、その世界の中に留まり続け生きなければならない苦役を背負ってしまったことに、裕介は気づいていなかった。

腹立たしい思いで、ビルをでると、ジャケットのポケットから携帯を取り出した。
作品名:かいなに擁かれて 第二章 作家名:ヒロ