かいなに擁かれて 第二章
それは裕介に話かけているというより独白に近かった。魅華のストレートの髪を撫でながら、僅かに強く抱き寄せた。何時もと同じデオドラントの香がする。
「ソロのコンサート、ああ、良いじゃないか。オレに出来ることならどんなことだって協力するし、誰よりも応援するよ。ソロのピアノ聴いてみたいよ」
「ほんとう。嬉しいわ、ありがとう。それじゃぁ、ひとつだけお願いがあるの。いいかしら?」
細い肩に腕をまわしたまま、裕介は頷いた。
「あのね、コンサートが終わるまで、ワタシに構わないで居て欲しいの。怒らないで、ごめんなさい。アナタのことが嫌いになったとか、煩わしいとかそんなことじゃないの。アナタと知り合えて本当に感謝しているのよ。知り合ってこの半年、夢を見ているようだわ。こんなに大切にしてもらったのは初めてだから。素敵なレストランや泊まったことのない立派なホテルにも。仕事でゆく機会は何度もあったけれど、お客さまとして泊まれるなんて、ほんと感謝しているのよ。あ、そんなことをしてくれるから付き合っている訳じゃないわ。それは分かってね。申し訳ないくらいの贅沢をさせてもらっているわ。本当に感謝しています」
「ああ、要するにコンサートの為に集中したい。て、ことだろう?」
「うん。それもある。だけど、それだけじゃないの。気を悪くしないでね。ちゃんと話しておきたいから。あのね、ワタシがコンサートを開催するってことはね、凄く大変なことなの。知名度なんて全然無くてお金もないし、それなりに年齢も重ねてしまったワタシがそれを主宰するってことはね、これまでどんなことも自分の力で押し通して、誰かに平伏せたことも無く負けたことのないアナタには理解できないようなことが、この先に多分たくさんワタシに起きてくると思うの。だから構わないでいてほしいの」
「だから、オレに出来ることならどんなことだって協力も応援もするって言っているだろう。ある程度ならこのオレにも資金の応援だって出来る力はあるぞ。協力するよ。無駄な苦労をする必要なんてさらさら無いさ」
穏やかな声ではあったけれど、力で何かを平伏すように自信に満ちた表情で裕介は云った。
「うん。ありがとう。だけど、それじゃぁ――意味――がないの。少し眠りましょう」
とだけ云って。そのあと魅華は何も話さなかった。
作品名:かいなに擁かれて 第二章 作家名:ヒロ