奇妙劇 薩長同盟
三人退場しながら、舞台暗転
長州・桂の家(夜)
桂と中岡が向かい合って座って話している。
桂 「それで、今日はどういったご用件で? 中岡さん」
中岡 「単刀直入にいいます。薩摩と密約を結んでください」
桂、突然立ち上がる。
桂 「薩摩だと! ふざけるな! あんな幕府の犬と話し合うことは絶対にない!」
中岡 「まあまあまあ。落ち着いて、落ち着いて」
中岡、桂を落ち着かせて、座らせる。
桂 「ふん。そういう話なら、帰ってくれ」
中岡 「まあまあ。長州にとっても悪い話じゃないんですよ」
桂 「なんだと?」
中岡 「幕府が、再び長州征伐を行おうとしてるのは知っていますか?」
桂 「ああ。知っている。そこに薩摩がかかわってることもな」
中岡 「確かにそうです。ですが、薩摩は今回の出兵には後ろ向きです」
桂 「なんだと? なぜそんなことが言えるのだ」
中岡 「私の仲間が、薩摩の西郷さんと直接話して聞いた話です」
桂 「ふん。それが事実だとして、薩摩がこちらに味方するわけではあるまい」
中岡 「表向きはそうですが、密約によって味方にすることは可能です」
桂 「そんな都合のいいことがあると?」
中岡 「ええ。もし、長州が幕府に敗れることになったら、次に狙われるのは薩摩でしょうからね」
桂 「なるほど……。確かに一理ありますな」
中岡 「ですから、ぜひ薩摩と話し合う機会を」
桂 「だが断る」
中岡 「なぜですか!」
桂 「他の奴らが納得しないだろう……」
中岡 「そちらも、部下が話をつけてくれるはずです」
桂 「そうか。ただし密会の場所はこちらで指定させてもらうぞ」
中岡 「わかりました。では、密約の内容についてですが……」
話しながら舞台暗転
薩摩・西郷の家(夜)
小松を連れた西郷と、向かい合うようにメモを持った坂本が座っている。
西郷 「それで、おいどんに一体なんのようでごわすか」
坂本 「えーとですね、長州と密約を結んでほしい……ぜよ」
坂本、メモを確認しながら話す。
西郷 「長州とでごわすか」
坂本 「幕府を倒すのために、薩摩と長州が手を組めば、それが可能なんです……ぜよ」
西郷 「うむ……。まあ、倒幕の矢面に長州が立ってくれるなら、こちらとしてもやりやすくはあるでごわすが」
坂本 「薩摩が不利になることのないよう、我々も全力でサポートします……ぜよ」
西郷 「…………。わかったでごわす」
坂本 「では、密会の場所と日にちが決まり次第。また、来る……ぜよ」
西郷 「ごわす」
坂本 「ところで、西郷さんって意外と痩せてるんですね……ぜよ」
西郷 「そうでごわすか?」
坂本 「いや、まあ、想像と違ったというか、なんというか……ぜよ」
西郷 「それよりも、もっと詳しい話を聞かせてほしいでごわす」
坂本 「詳しい話ですか……ぜよ」
西郷 「あと、勝殿との話も聞きたいでごわすな」
坂本 「え、あ、はい……ぜよ」
舞台暗転
西郷退場。中岡登場。
舞台明るく。
中岡と坂本が話している。
中岡 「いやあ、西郷さんを説得できるなんて、期待以上です。坂本さん」
坂本 「西郷さんが頭の切れる人だったおかげです……ぜよ」
中岡 「では、下関に行っててもらえますか」
坂本 「わかりました……ぜよ」
坂本退場
中岡 「さて、もう一仕事と行きますか」
舞台暗転
下関の館(夜)
桂と坂本、土方が座っている。
桂 「遅い。遅すぎる。いったいどうなってんの」
土方 「おかしいですね。こちらに向かってるはずなんですけど」
坂本 「中岡さんも一緒ですし、大丈夫じゃないでしょうか……ぜよ」
土方 「そうよね。あいつがいれば大丈夫よね」
桂 「もう。待てない! 帰る!」
中岡が駆け込んでくる。
中岡 「ちょっと待ってください。桂さん」
桂 「なんですか。それと今は木戸寛治です」
中岡 「京都に向かってくれませんかね?」
桂 「京都?」
中岡 「西郷さんがそっちで話をつけたいって」
桂 「ふざけないで。場所はこっちで指定するはずでしょ」
中岡 「そこを何とか。桂さん」
桂 「だから、今は木戸寛治ですって。場所も変えませんよ」
中岡 「そこをどうにか。お願いしますよ。桂さん」
桂 「だから、木戸寛治だって言ってるでしょ!」
桂、カツラを投げ捨てる。
桂 「あ……」
中岡 「……えーと、どなた?」
土方 「え、なに。桂ってカツラだったの? てか、女だったの?」
桂 「今は桂小五郎じゃなくて木戸寛治よ。夫は」
中岡 「夫? てことは幾松さん!?」
桂 「そ。一回目は向こうの動きをうかがうために、私が身代わりとしてきたの」
中岡 「え、じゃあ、前に話したも、あなた?」
桂 「それは夫のほうよ。あなたとは初対面だもの」
土方 「なんで危険な身代わりなんてやってんのよ」
桂 「こんなところで死なないもの」
土方 「なんで言い切れるのよ」
桂 「知ってるもの」
中岡 「もしかして、この時代じゃないとこの人?」
桂 「え? もしかしてあなたも?」
土方 「え? マジで。他にもいたの」
坂本 「こんなに他の現代人いたのかよ!」
中岡 「あんたもかよ!?」
桂 「なんか大変なことになってるわね」
中岡 「整理させてもらえるか。俺は平成から来た、今は中岡慎太郎だ」
土方に促す。
土方 「あたしは、昭和から。本名は徳川喜子。将軍の子孫よ。今は土方久本って名乗ってるわ。はい、次の人」
坂本を指さす。
坂本 「自分も平成からきました。坂本和馬です。今は龍馬さんやってます」
桂のほうを向く。
桂 「私は平成よりも先の未来から来たわ。今は幾松よ」
中岡 「まさか、こんなことになってるなんて……」
桂 「それよりも、中岡さん。あなたこの後の動きわかってるんでしょ?」
中岡 「ええ、一応」
桂 「なら、あなたの指示通り動くから、任せたわよ」
中岡 「あの、幾松さんは知らないんですか?」
桂 「桂小五郎が薩長同盟結んで、明治まで生き残ることしか知らないわ。日本史の授業好きじゃなかったから」
中岡 「わかりました。ちなみに土方と坂本さんは?」
土方 「知らないわ」
坂本 「自分も知らないです」
中岡 「おっけい。なら、ここからは俺の指示通りにみんな動いてくれよ」
舞台暗転
小松の館(夜)
西郷が小松に向かって話している。
西郷 「なあ、小松。本当にこれでよかったのか。これでは、薩長同盟の話もなかったことになりかねないじゃないか。そんなことになってはやっと見えた倒幕への道を自ら閉じてしまうような行為だろ。なあ、小松」
謎の女が入ってくる。
謎 「西郷さん。お待ちのかたがお見えになりました」
西郷 「あいわかったでごわす」
謎の女退場
西郷 「よし、もう行くぞ」