小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

レイドリフト・ドラゴンメイド 第16話 融和と痛み

INDEX|2ページ/3ページ|

次のページ前のページ
 

 文字はギリシャ語と同じ字と読み方だが、ところどころに”?”が入っている。
 この”?”マークが、ルルディが発見した魔導印の根幹だ。
 言葉の中にあえて謎を意味する?マークを入れることで、元の意味以外の次元から超常現象を引き出す源とする。

 古代のルルディの人々は、それを人間の持つ7つの欲としてまとめた。
 未来から現代へ影響を与える概念を思い描くとき、そのイメージを統一させることで、集中させ、いわば川の流れを分けて7つの方向へ向けるように、制御してきたのだ。
 この場合、食欲から転じて健康をつかさどる魔法が掛けられている。
 このほかには、美をつかさどるウサギの絵と「καλο?」の文字が入ったカロス。
 挑戦をつかさどる狐の絵と「πρ?κληση」の文字が入ったプロクリスィ。
 憂鬱をつかさどるフェニックスの絵と「κατ?θλιψη」の文字が入ったカタスリプスィ。
 義憤をつかさどるユニコーンの絵と「θυμ??」の文字が入ったスィモス。
 憧れをつかさどる人魚の絵と「θαυμασμ??」の文字が入ったサヴマスモス。
 誇りをつかさどるグリフォンの絵と「περηφ?νια」の文字が入ったペリファニャ。
 達美のパーツには、実験のために、これらの魔導印が刻まれている。
 誇りは歌声をつかさどる人工声帯。美は左わき腹のエレキギター用アンプに。
 義憤は両腕のプラズマ兵器に、など。

 達美は、これで破損パーツの取り外しは終わったのを確認した。
 次は、新しいパーツを取り付ける。
 先ほどはランナフォンもつかめなかった手に、新しい物がついた。
 ダウンロード中の新しいソフトウェアは、まだ75%。

 そう思ったら、システムから動きのリクエストがきた。
{右足を上げ、つま先も上げてください}
 そのとうりにすると、ずれたパーツの隙間から銃弾が落ちた。

 智慧は怪我人が寝かされたホールを横切り、大きなドアが開けっ放しになっている、調理場に入るところだった。
 そのときだ。
【バカかあんたは! 】
 叫びがとどいた。
 膨大な土砂や資材で作られたシェルターでもある市役所を、揺るがすような男の声。
「だ、誰がバカですってぇ! 」
【達美! 市役所からよ! 】
 智慧の言うとうり。
 調理場のドアがある壁の一番奥に、もう一つドアがある。
 このドアは、先ほどユニと巌がクミを連れて入った物。
 外界から完全に遮断される、地下シェルターに繋がっている。
【下がって! 下がってください! 】
 叫びながらドアに近づく少年。
 予知能力者の黒木 一磨だ。
【そのドアから危険人物が出てきます! 】
 だが、周辺の人々は彼が予知能力者だとは知らない。
 その場で困惑するだけだ。
【そのドアから離れて! 離れてください! 】
 一磨に続いて叫びながら駈けつける少年。
 同じ学園のジルだ。
 2人は、その場にあった車輪付きベッドを動かし始めた。
 動けない人を少しでも遠ざけるために。

 メイメイも一磨とジルに続く。
 だが、その手の中で変化が起こった。
 黒光りする鉄の棒が、勢いよくのびだした。
 長さは1メートルほど。
 その先端に鋭い刃が現れる。
 それは槍だった。

 メイメイ、熊 明明の能力は、どんな異能力法則であっても、対応しきる能力。
 達美達の地球では、概念宇宙論による異能力がほとんどだが、宇宙には、他に様々な異能力がある。
 地球の平行世界であっても違う事がある。
 空気中の霊子と呼ばれるエネルギー物質を取り込むことで力を使う世界。
 本人の遺伝子情報により、脳の中の思考が異なる現実を作り出し、力となる世界など、様々だ。
 メイメイはその能力により、あらゆる世界の異能力を高出力で発動できる。
 それゆえ、幼いころから異世界から召喚され続けていた。
 本人からしてみれば、誘拐だ。
 それでも、彼はその召喚をチャンスに変えた。
 さまざまな世界のアイテムを集め、それを発明家である自分のイマジネーションの源としたのだ。
 今では、コレクションは誰でも使える装備となっている。

【ハッケ! 来い! 】
 槍の調子を確かめるように頭上で音を上げて振り回しながら、もう一人の名を呼ぶ。
 その声に答えたのは、智慧の車椅子だった。

【イエス。マスター】
 新たな声。電子音声だ。
 それはメイメイの声とそっくりだ。
 それも当然。メイメイからサンプリングしたからだ。
 金属の留め金が外れる音、細かなモーター音がひびき、まず横の車輪が跳ね上がった。
 車輪は勢いよく回転する。
 すると、タイヤはローターとなり、下降気流を生み出した。
 車いすが宙に浮く。
 機械音はさらに激しくなる。
 車いすの車体から。折りたたまれていた長いパーツが飛び出す。
 パーツは手足となり、人の形になった。
 人間のバランスからみると、細長い手足だ。
 手足は金属に紺色のペンキを塗った、重々しい質感。
 だが、シートのデザインと合わせて見れば、それは魔術学園高等部の男子制服と同じデザインに塗られているとわかるだろう。
 背もたれの裏から飛び出したのは、頭だ。
 バイクのフルフェイスヘルメットを思わせる。
 車いすとしての車輪は、ヘリコプターのプロペラの様になって背中に。
 背もたれは胸。腰掛は腰から膝を覆う。

 ハッケは、メイメイが作った情報管理ロボットだ。
 名前の由来は、占いにおける森羅万象を意味する「八卦」
 それとメイメイの母校であるマサチューセッツ工科大学の伝統的いたずら「ハック」をひっかけた。
 れっきとした3年B組の生徒であり、図書委員会委員長を務める。

 ハッケは無人になったドアの前に降り立ち、人間たちと隔てた。
 その時、地下シェルターへのドアが勢いよく破られた。
 中から、一人の男が顔をだす。
【我に武器を与えよ! 】
 よろけながら、それでも叫び、力を示すように拳を振り回す。
 そのさまは手負いの獣が荒れ狂っているように見えた。

 だが、男のそれはゆっくりした動きに過ぎない。
【――グフッ】
 ハッケが首の後ろをつかんで引くと、一瞬で倒れた。
 男は不思議な体勢になった。
 足はドアの上くらいの高さで動かなくなり、頭は床に押しついている。
【失礼ですが、引きずり出させていただきます。
 まっすぐ寝ていただかないと窒息してしまいます】
 男と対照的に穏やかな声で、ハッケが話した。
 そして、ドアの向こうから男の足の先を引きだした。
【離せ! はなせ! 】
 男はその姿が恥ずかしいのか、顔を真っ赤にして暴れる。
 不思議な姿だ。
 足首から下、つま先からかかとまでが、自分の身長ほどもある。
 しかも、その足は銀色の鱗に覆われ、爬虫類のような形をしていた。
 間違いなく、地中竜の足だ。
【うわああああぁ! 】
 一喝。男はハッケの手をはねのけ、体を起こした。
 つま先立ちの様に足を延ばし、頭と肩を天井に打ちつけるような姿になる。

 同時に、メイメイの槍が襲いかかった。
 元々バランスがとれていなかった足に無数の切れ込みが走り、崩れ落ちた。
 傷から滲み出す血は少ない。