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大石 りゅう
大石 りゅう
novelistID. 59714
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風の皇子 タケハヤ その一、旅立ち

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たのだが・・。どんなに、すぐれた、天孫星人の、能力を、持ってしても、どうしても、抑えきれない、

地球人の、想い、と、いうのは、あっただろう。それに、後になって、知ったのだが、この、地球人の、

反抗心を、影で、操るものが、存在したのだ。

天孫星の存在する、星系では、惑星同士の、戦争が、絶えなかった。放射能が、地球における、酸素のような働きをする、その星系では、惑星の、放射能濃度を、一定に保つことが、生命維持の、第一条件だった。但し、放射能は、磁場の影響を受けやすく、銀河系における、太陽のような、恒星を、その星系では、太暗(たいあん)と、いって、ブラックホールみたいになっており、この太暗が、各惑星の、放射能濃度を、コントロールしていた。この、太暗のポジショニングをめぐって、各惑星での、熾烈な戦いが、繰り広げられ、それぞれの惑星が、種族壊滅寸前までに、追い込まれた。

そこで、各惑星の、執政者は、協議をし、決定した。このままでは、とも倒れになる。多少、不自由な思いをしても、各惑星を、ある方法で、順位を決めようと。

それが、未開の星、地球の、開発計画である。各惑星で、地球上の、各地ごとに、担当を決め、一番文化を発展させた星が、優先的に、太暗の恩恵を、こうむることが出来る、と。

そして、天孫星が、担当したのが、瑞穂の国、現在の、日本だったのである。

この先のことを、書いてしまうと、かなり、物語の、先が読めてしまうことになり、読者にとっても、興覚めであろう。おいおい、明らかにしていくことにして、本筋に、戻ることにする。


 オラは、八百万の神との不和が、その両方の血を引くオラによって、引き起こされるのを、どうしても、避けたかった。あるいは、オラは、逃げたかったのかも、しれなかった。オラは、゛風の申し子゛だった。風のように、自由に、生きたかった。オラが出奔したことは、様々な憶測を呼び、オラが負わされた、様々な冤罪を、結果的に認めることになり、オラを必死で庇い続けてくていた、アマテラス、ツクヨミの二人は、かなり、じくじたる想いがあったらしいが、その頃には、すでに、オラは、もはや、遠い旅の空の中であった。


 オラは、タカマガハラを出奔した後、瑞穂国を、あちこち気ままに、旅して歩いたが、最後に、落ち着いたのが、北の果て、オラの母、豊蕗(フブキ)の生まれ故郷の、ツガルの里だった。


 この、オラが各地を、行脚していた間にも、様々な、興味深い、エピソードが、あるのだが、それは、またの機会に、語られるべきであろう。

「まぁ、もう、過ぎた事だ。ぐだぐだ言っても、始まらねぇよ。」

オラは、こう言って、脳裏から、遥かな追憶を、振り払った。アマテラスは、泣き笑いの顔で、言った。

「ほんまに・・、口惜しいやなぁ・。のう、タケハヤ、いつでも、タカマガハラに、帰って来ても、ええ

んやで。」

「よしてくれよ!オラが、タカマガハラに、帰ったりしたら、一気に、タカマガハラじゅうが、人間臭く


なっちまうよ!」

こう、オラが、呵呵大笑しながら言うと、ツクヨミが、思わず、吹き出して、言った。

「ほんとに、お前は、豪快な、男らしい性格だのう!・・・これで、もう少し、背が、高かったら、文句

無しの、ますらを、なんじゃがのう!」

「・・放っといて、くれよ・・。」
そうなのだ。オラは、身長153センチ、と、当時の男性でも、かなり、背の低い方だった。おまけに、


東北の人間らしく、色白で、母親ゆずりの、ハッキリとした、どちらかといえば、女性的な目鼻だち、と


どめに、意味もなく、左目の下に、泣きぼくろなんかがあったりして、女性に間違われることも、しばし


ば、ひそかな、オラのコンプレックスだった。オラは、ひとつ、咳ばらいをして、きっぱりと、言いきっ


た。


「ともかく、冗談抜きにして、これ以上、姉ちゃんたちが、タカマガハラを離れるのは、まずいだろう。


二人とも、宮殿で、大舟に乗ったつもりで、待っててくれ。必ず、オラが、゛天皇゛を、連れて行くから


!」

「・・そやね。久方ぶりに、タケハヤをいびり倒すチャンスやけど、そんな、時間は、無い。タケハヤ、


うちらは、ひとまず、タカマガハラに、帰るワ。ドジ踏んだら、許さへんで!」


「そうだのう。お前は、昔から、無茶をするからのう。わしらは、お前さえ、無事なら、それで、充分な


んじゃからな。・・・それと!くれぐれも、人間の、悪い娘に、かどわかされるなよ!この、ツガルの里


は、みちのくらしい、のどかで、慎ましやかな、女性が、多いが、各地には、特に、都に近づくにつれて


かなり、悪ズレしたおなごも、おるからのう!特に、お前みたいな容姿の奴は、格好の、良い的に、なる


じゃろうからな。」


「大丈夫だよ、兄ちゃん!オラみたいな、チビで女っぽい外見の奴なんて、相手にするおなごなんて、い


ねぇべ。」


「そこが、危ないのだ。お前みたいな、外見と内面が、非常にズレてるタイプは、異性にとって、たまら


なく魅力的なものなんじゃぞ。」

「え~、もうっ!めんどくさいねんっ!時間が、無いっ、ちゅーとるやろっ!ツクヨミ!帰るで!タケハ


ヤが失敗したら、どつき回せばええことや。ほな、タケハヤ!ドジ踏んだら、許さへんで!」


アマテラスはそう言うと、゛天の羽衣(アマノハゴロモ)゛と呼ばれる、光ファイバー移動服を、身にま


とった。これは、自らの身を光ファイバーに変えて高速移動するという、当時で最も早い移動手段だった


「では、わしは、姉じゃほどとり急ぎ帰らねばならぬ理由も無いから各地でどの程度わしが作った暦が普


及しているか、視察しながら帰るとするかのう。」


ツクヨミはそう言うと、懐から何か楽器のようなものを取り出して、唇にあてがった。これは、月光の晩


にすくすくと成長する、霊力を帯びた「なよ竹」と呼ばれる神竹から造られた、笙と云う楽器だった。ツ


クヨミが静かに息を吹きこむと、じょうじょうと、えも云われぬ音色が辺りに響き渡った。すると、何処


からか、柔らかな羽音がして、巨大な、人ひとりが乗れる程の大きさの、耳が白鳥の翼で出来ている、純


白の兎が舞い降りてきた。

兎の耳は、白鳥の翼で出来ていて、兎の口元が動いて、何事かをしゃべった。はたしてその言葉は、先ほどの「笙」の音色と同じであった。
そうなのだ。古代における楽器とは、「神句器(かぐき)」がなまったもので、その名の通り神の言語の、一種の翻訳機のようなものだった。
というのは、前述の通り、天孫族には猿以外から進化した霊長類も存在したため、その身体の構造上、異種族どうし全く同じ言語を話すというのは、不可能であった。

精神魔力を使った、テレパシーを用いての意思の疎通という方法もあるが、この精神魔力の強弱は、個人によってバラツキがあるし、何より体力の消耗や様々な規制を伴うので、あまり効率的なやり方ではなかった。