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大石 りゅう
大石 りゅう
novelistID. 59714
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風の皇子 タケハヤ その一、旅立ち

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ツクヨミが、眉をしかめながら、言った。天孫星人にとって、地球の空気、特に酸素は有害で、オゾニウムと呼ばれ、地球人にとっての、放射能のようなものであった。その為、常に、結界で、その身を、外気から遮断する必要があった。その結界は、地球人の目には、金色にたなびく、雲のように、見えたであろう。よく、神話などで、神々が登場するとき、金色の雲とともに現われてくるのには、そういった理由が、あったのだ。

「でも、何で、わざわざ姉ちゃんたち自ら、オラに会いに、来てくれたんだ?通信士の、ヤタガラスに言

ってくれれば、オラ、すぐにでも、高天原(タカマガハラ)に、すっ飛んで、行ったのに。」
 
天孫星は、強い、放射能に、包まれた、星である。そのため、遺伝子に、変化が起こりやすく、様々な生

物から、知的生命体が、進化した。ヤタガラスも、そのうちの一種で、読んで字の如く、カラスから進化

した、八百万の神で、強い、テレパシー能力を持っており、その当時の、情報伝達に、なくてはならない

存在だった。私が、そう言うと、ツクヨミは、涼しげに笑って、言った。

「いや、それには、及ばんよ。我らは、お前が、どの程度、人間たちに馴染んでいるか、この目で、確か

めたかったのだ。」

アマテラスが、ツクヨミの、その言葉を引き取って、言った。

「せや。わらわたちは、お前に、頼みごとがあって、来たんや。」
「頼みごと?おう、いいよ。他でもねぇ、姉ちゃん、兄ちゃんからの、依頼だ。何ンでも、言ってくれ。」


オラの、この発言を聞いて、ツクヨミは、思わず、笑い出して、言った。
「相変わらず、せっかちだのう、タケハヤ!それでは、お前がイライラしないように、結論から、言ってやるか。我らは、お前に、人探しを、して貰いたいのだ。」
「人探し?」
「せや。わらわらは、お前に、この瑞穂の国を、治める、゛天皇゛を、人間の中から、探し出して欲しいのですよ。」
 

アマテラスらの話は、こうであった。数百年前、タケハヤたち、姉兄の父、イザナギ他、数多くの天孫族が、後の、瑞穂国となる、この地へ、文明を伝えんと、宇宙船゛天鳥舟(アマノトリフネ)゛号で、降り立った時、ほとんど原始人も同然だった、地球人たちも、だいぶ文明的になり、そろそろ、独り立ちしても、良い、頃合いであろう。


そこで、地球人たちの中から、アマテラスの役目を継承するのにふさわしい人物を探し出し、農耕民族の、瑞穂国民にとって、最も大切な、太陽、すなわち、゛天゛を司る゛皇゛すなわち、天皇となし、しかる後に、アマテラスら、天孫星人は、母性である、天孫星へ、゛神去る(カムサル)゛ようにと、天孫星の、中枢機関から、お達しがあった、というのだ。
そこで、人間たちとも親しく、フットワークも軽い゛風の申し子゛の、お前に、白羽の矢が、立てられ

たんや。」

アマテラスは、こう、話を、しめくくった。オラは、喜び勇んで、言った。

「分かった!オラ、絶対、その、゛天の皇さま゛を、見つけ出して、姉ちゃんたちのトコへ、連れて行

く!よーし、それじゃ、すぐにでも旅立つから、二人は、自分たちの宮殿で、待っててくれ!」

オラのその言葉を聞くと、しかし、アマテラスは、何故か、涙ぐんで、言った。

「ほんになあ、真っ直ぐな、良い子に育って・・。本来ならば、お前も、゛凄王命(スサノオノミコ

ト)゛と、云う、立派な役職があって、八百万の神として、おおえばりで、タカマガハラに君臨しても、

ええものを・・。」

それを聞いたオラは、複雑な気持ちになって、言った。

「止してくれよ!・・・その名は、捨てた名だ・・・!」

゛スサノオノミコト゛とは、゛凄まじく危険を伴う海(わだつみ)を制する王゛という意味で、当時、相

次ぐ戦乱の絶えなかった、大陸からの落ち武者が海賊となり、たびたび瑞穂の国へ、上陸しては、周辺住

民を脅かしていたのを討伐する、と云う、今で云う、海上自衛官長官のような、要職であった。オラは、

ある理由から、その役職を、放棄したのだ。ツクヨミが、憤懣やるかたない、といった様子で、吐き捨て

るように、言った。

「全く・・・!タカマガハラ議会の、狸爺いどもめ・・・!」

 八百万の神は、いわゆる、゛善意の神゛では、無い。基本的に、その、精神構造は、人間と同じで、善

良な者も居れば、性質の悪い者も居る。なまじ、強大な能力と権力を持っているが故に、悪い方向へ転ぶ

と、手に負えない。オラは、困ったように、話していた。

「うん、まぁ・・・。どこの世界でも、権力者ってのは、陰険だからなぁ。」

オラは、タカマガハラ議会の、長老たちの奸計により、タカマガハラを、追放されたのだ。人間の血を引

く者が、権力を持つことを、良しとしなかったためだ。
 
その当時は、通常十三歳で、成人式を迎えるのだが、オラは、成人すると同時に、スサノオノミコトに就

任した。そして、非暴力主義を徹底したため、敵からも、味方からも、絶大な人気を、得てしまった。オ

ラは、八百万の神の務めとは、悪を退治することでは無く、改心させることだと、思っていた。その信念

通りに行動したことと、瑞穂の国自体が、高い文明と、豊かさを誇っていたことが、土台となって、そう

いう結果を、生んだのだろう。貧困にあえいでいたら、きれいごとでは、済まないからだ。

 但し、その人気を得たことが、長老たちの、嫉妬心を、煽ったのだ。

長老たちは、オラにまつわる、様々な、流言飛語を、撒き散らかした。曰く、オラがアマテラスオオミカ

ミの座を、狙っている。曰く、オラが、アマテラスへの嫌がらせのために、アマテラスの、畑のあぜ道を

切り、溝を埋めた。アマテラスが食事を摂る御殿に、糞を撒いた。しまいには、絹の、機織り部屋の、梁

を、壊して倒壊させ、天之斑馬(アマノハンメ)を、さか剥ぎにして投げいれ、中に居た、織女を死亡さ

せた、などなど。

あまつさえ、そんな長老たちの、レベルの低さに呆れはて、天の岩戸へ、引きこもってしまった、アマテ

ラスなのに、その理由を、オラが、あまりにも、傍若無人であったため、と、冤罪を、着せたのだ。

オラは、この一連の出来事を、良い、潮時と感じ、タカマガハラを、出奔することを、決意した。オラ自

身も、タカマガハラの民の、オラに対する、現代の、アイドル並みの、熱狂的な反応に、危機感を、感じ

たためだ。それは、オラに対する、好意よりも、傲慢な、タカマガハラ議会に対する、一種の、シュプレ

ヒコール的なものが、そういった形で、現れたのではないかと、そう感じたのだ。当時の、瑞穂の国は、

豊かではあったが、国民に、自由が無かった。天孫星人にとって、地球人とは、実験動物に過ぎず、遺伝

子操作のため、恋愛・婚姻も、タカマガハラ宮に、支配され、言論の自由も、許されてなかった。と、い

うより、反乱分子は、すぐに、タカマガハラ宮に、発見され、脳をコントロールされて、思考そのもの

も、変えられていった。オラは、そういった、タカマガハラ宮の在り方にも、ずっと、疑問を、抱いてい