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樹の家

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私の朝は まずは水やりから始まる。
物心ついた時から 私の役目ようです。

始まりは たわいもないできごとでした。
幼稚園の年長さんだった私の一枚の絵が 今ある姿になるなんて可笑しいったらありゃしない。今見れば、ほんの落書きのような絵です。でもその頃は、いっぱい夢を詰め込んで よそでは見せたことのないような笑顔で描いていたと母が話してくれました。



徒歩通園していた私は、母と幼稚園からの帰り道に思いつくままに話すことが好きでした。青い空を見上げて歩く私の手を握り、上を向いたままでも安心して歩くことができたり、興味が湧くと立ち止まって草花を見ていると後ろでずっと待っていたり、たまに母のほうが「ねえ これこれ見て」と足を止めてしまったり、その頃を話せば、いくらでも出てきそうです。
もちろん、朝、家を出て幼稚園へ向かう道も興味はいっぱいでしたから、登園時間に遅れないようにと繋ぐ母の手がちょっと強く握られているように感じました。それでもいつもいい子ではなかったようで 途中から強引に背負われて 園に連れて行かれたこともしばしばあったように思います。


幼稚園から帰宅して家で過ごす時は、リビングの端に置かれた一帖にも満たないラグの上で 折り畳み式のテーブルの処で絵本を読んだり、絵を描いたりすることが好きでした。片端が螺旋の針金でまとめられた画帳を広げ クレヨンや色鉛筆 ときにはサインペンで白いページを埋め尽くすように描いていました。きっとまだ語彙の少ない言葉よりも自分の想いを表現できる気がして絵を描いていたのかもしれません。
埋め尽くされている絵を見て 母は「一枚ごとに描いたら?」と言いましたが、私には 塗り重なった絵もひとつずつ見分けることができました。
他人からは 一枚の色を塗りたくった紙であっても 私にはストーリーが隠れている……

たとえば、土に芽を出し、樹が伸び、枝の先に小さな葉をつけ生い茂る。やがて葉が落ち、また 葉が茂る。大きくなった樹に 小鳥がとまり 恋をして(当時はわからなかったけれど)樹に巣をつくり、飛び立っていく。
それを画用紙の上に 画が重なりながら描かれる。
明るい色で描いていれば その色彩も美しくも見られるでしょうが、いつだったか雨の夜を描いた絵は、ただの所どころにグレーの混じるほぼ真っ黒なモノだったようです。


作品名:樹の家 作家名:甜茶