‘50sブルース ララバイは私が歌ってあげる
ララバイは私が歌ってあげる 【美和52歳】
叶わぬ恋は永遠に愛していられる
誰かを好きだという行為が私を いっそう元気づける
つまらない結婚生活の中で見だした私が私でいられる方法
片思いだからこそ心キュンとなる事が多い
冷たい態度に泣いたり 優しい言葉に有頂天になったり・・・
彼は遊びのつもりかもしれないけど
色のない生活から 私に色彩のある人生を与えてくれた
どこまでが本物の恋愛?
そんなのどうだって構いやしない
私は私を見つめて彼を利用してるし 彼も私を利用している
利害関係が一致?
意外と恋って そんなものかもしれない・・・
パワフルなエンジンユニットをフロントミッドシップに搭載した200馬力を出す、美和のスポーツカーを玲二は乗りにくそうに運転している。
「車って動いて快適ならば、それだけでいいし」という彼は売れないイラストレーターだ。
「カッコいいけど、これでラブホに入るにはカッコ悪いぜ」
「どうして?」美和は聞いた。
「いかにもの男がいかにも連れ込んでって云う絵じゃない?」
「あら、あなた、いかにもって男なの?」
助手席ですました顔で言う美和の顔を見て、笑みを浮かべた玲二は取り回しのいい小さめのハンドルを回し、混雑した公園の駐車場の入口で順番待ちをした。
今日はここ海峡公園でイベントが行われている。海のそばでは縁日の屋台も出て賑やかそうだった。
「外は暑そうだな」玲二が言った。
「日傘持って行こうか?」
「おばさんだな。日焼け、シミが気になるんだ?」
「女はみんなそうよ。トランク開けてくれる?そこ、ハンドルの右横」
玲二は借り物の車だから、オタオタしている。
運転は上手いが、車に関しては本当に無頓着のようだ。
明治・大正・昭和初期の建物を一同に集めレトロを売り物にしたこの公園は、海がすぐそばにあり外国人観光客にも人気がある。平日は閑散としているが休日ともなれば、いろんな即席マーケットがテントを張り買い物客や家族連れで賑わっている。
海峡を挟んだ向こうの海岸も同じようなベイサイド公園があり、そことを結ぶおしゃれな連絡船が20分間隔で運行していた。
海峡は大きな橋で結ばれ、交通の動脈とも言える国道も海の下を潜る海底トンネルで結ばれている。その海峡を見たいといったのは美和だった。
「意外と狭いのね。この海峡って。もっと大きいかと思ってた」
「渡し船でも乗ってみようか。往復すればいいし」
「なんだかアトラクションみたいね」
チケットを買い船の展望デッキに座り出航を待った。海峡の向こうと言っても5分で到着する。
大勢の観光客を載せた渡し船は遊園地の遊具のスタートみたいに簡単に出港した。
この海峡は大型船が頻繁に通る、主要航路のひとつだからデッキからはいくつものタンカーやコンテナ船が見えた。意外と流れは速く波も高い。美和と玲二を載せた船は程よいスピードで高波を切り裂き水しぶきをあげながら対岸に到着した。
ひと周り対岸の公園を散歩すると、また同じように二人は船に乗り帰港した。
「なんだか遊園地みたいだったね」美和が言う。
「海を挟んだ遊園地ってのもなかなかいいね。もう二度とは来ないだろうけど」
「あら、どうして?」
「僕達もいい歳なんだし、いろんなとこに行ったほうが楽しいだろう。だから僕らの旅行は一期一会。一回きりの旅なのさ」
「まあ、そうだけど。なんか寂しいよね」
「だから、今を楽しくしなくちゃ」そう言いながら玲二は次の面白そうな建物に向かって歩いていた。
今を楽しくしなくちゃ・・玲二の言葉は美和の心に刻まれる。それは美和自身、そう思って玲二と付き合っているからだ。
セックスレスが長い夫とは、もうずいぶん心の交流がない。殺伐とした家庭で美和が頼ったものは自分が産んだ子供だった。その子供たちも大きくなり全員、家から離れて住んでいる。夫との二人の生活は老いへのカウントダウンをただ数えるだけのようで心怯える日を過ごす毎日だった。
そして6年前、夏の厚い雲が土砂降りの雨を降らせ雨宿りを強いられた商店街で、たまたま玲二の個展を見かけた。ひと目で気に入った美和は彼のホームページに入り込み、連絡を取り、そしてデートをするようになった。
叶わぬ恋は永遠に愛していられる
誰かを好きだという行為が私を いっそう元気づける
つまらない結婚生活の中で見だした私が私でいられる方法
片思いだからこそ心キュンとなる事が多い
冷たい態度に泣いたり 優しい言葉に有頂天になったり・・・
彼は遊びのつもりかもしれないけど
色のない生活から 私に色彩のある人生を与えてくれた
どこまでが本物の恋愛?
そんなのどうだって構いやしない
私は私を見つめて彼を利用してるし 彼も私を利用している
利害関係が一致?
意外と恋って そんなものかもしれない・・・
パワフルなエンジンユニットをフロントミッドシップに搭載した200馬力を出す、美和のスポーツカーを玲二は乗りにくそうに運転している。
「車って動いて快適ならば、それだけでいいし」という彼は売れないイラストレーターだ。
「カッコいいけど、これでラブホに入るにはカッコ悪いぜ」
「どうして?」美和は聞いた。
「いかにもの男がいかにも連れ込んでって云う絵じゃない?」
「あら、あなた、いかにもって男なの?」
助手席ですました顔で言う美和の顔を見て、笑みを浮かべた玲二は取り回しのいい小さめのハンドルを回し、混雑した公園の駐車場の入口で順番待ちをした。
今日はここ海峡公園でイベントが行われている。海のそばでは縁日の屋台も出て賑やかそうだった。
「外は暑そうだな」玲二が言った。
「日傘持って行こうか?」
「おばさんだな。日焼け、シミが気になるんだ?」
「女はみんなそうよ。トランク開けてくれる?そこ、ハンドルの右横」
玲二は借り物の車だから、オタオタしている。
運転は上手いが、車に関しては本当に無頓着のようだ。
明治・大正・昭和初期の建物を一同に集めレトロを売り物にしたこの公園は、海がすぐそばにあり外国人観光客にも人気がある。平日は閑散としているが休日ともなれば、いろんな即席マーケットがテントを張り買い物客や家族連れで賑わっている。
海峡を挟んだ向こうの海岸も同じようなベイサイド公園があり、そことを結ぶおしゃれな連絡船が20分間隔で運行していた。
海峡は大きな橋で結ばれ、交通の動脈とも言える国道も海の下を潜る海底トンネルで結ばれている。その海峡を見たいといったのは美和だった。
「意外と狭いのね。この海峡って。もっと大きいかと思ってた」
「渡し船でも乗ってみようか。往復すればいいし」
「なんだかアトラクションみたいね」
チケットを買い船の展望デッキに座り出航を待った。海峡の向こうと言っても5分で到着する。
大勢の観光客を載せた渡し船は遊園地の遊具のスタートみたいに簡単に出港した。
この海峡は大型船が頻繁に通る、主要航路のひとつだからデッキからはいくつものタンカーやコンテナ船が見えた。意外と流れは速く波も高い。美和と玲二を載せた船は程よいスピードで高波を切り裂き水しぶきをあげながら対岸に到着した。
ひと周り対岸の公園を散歩すると、また同じように二人は船に乗り帰港した。
「なんだか遊園地みたいだったね」美和が言う。
「海を挟んだ遊園地ってのもなかなかいいね。もう二度とは来ないだろうけど」
「あら、どうして?」
「僕達もいい歳なんだし、いろんなとこに行ったほうが楽しいだろう。だから僕らの旅行は一期一会。一回きりの旅なのさ」
「まあ、そうだけど。なんか寂しいよね」
「だから、今を楽しくしなくちゃ」そう言いながら玲二は次の面白そうな建物に向かって歩いていた。
今を楽しくしなくちゃ・・玲二の言葉は美和の心に刻まれる。それは美和自身、そう思って玲二と付き合っているからだ。
セックスレスが長い夫とは、もうずいぶん心の交流がない。殺伐とした家庭で美和が頼ったものは自分が産んだ子供だった。その子供たちも大きくなり全員、家から離れて住んでいる。夫との二人の生活は老いへのカウントダウンをただ数えるだけのようで心怯える日を過ごす毎日だった。
そして6年前、夏の厚い雲が土砂降りの雨を降らせ雨宿りを強いられた商店街で、たまたま玲二の個展を見かけた。ひと目で気に入った美和は彼のホームページに入り込み、連絡を取り、そしてデートをするようになった。
作品名:‘50sブルース ララバイは私が歌ってあげる 作家名:海野ごはん