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目覚めて二人におはようを

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 あの笑顔を思い出す。あれは完っっっ璧な失態だった。してやられた。カレー食べてる時足踏んでやろうかと思った。でも結菜に文句を言われるのも堪える。どうしよ本当。で、こうやって足踏みするのも向こうの掌の上で、なんじゃそりゃ。手玉に取られるだけじゃん私。
 さすがにそれは悔しいので英花にメールした。「助けて」「私に言われても困る。具体的にどうしたいのか、そもそも瑞奈の方向性がわからない(´・ω・`)」「昨日も言ったけど結菜に嫌われないで真冬を遠ざける」「だから遠ざけるってなに。別れさせたいの、絶交させたいの、それとも瑞奈の視界に入れたくないの」。うーんたしかにそうだった。可能性としては一番最後だけど、それはなかなか難しい。全部ひっくるめて遠ざける、が一番近いかもしれない。
 そしたら、「それをするってことは真冬ちゃんを傷つけることに繋がるかもしれないし、それは結局結菜ちゃんを傷つけることにも繋がるかもだけど、それでいいの?」。英花はちゃんと考えてくれている。そう、結局そこになる。踏み切れないといつまでも現状が続くけれど、踏み切ったらひとを傷つけなくちゃいけない。私は人を傷つけて傷つかないほど強くない。自分の問題。
 ありがと、やっぱ自分で考える、英花に返信してベッドに倒れて午前一時ちょい過ぎ。そろそろ寝ておかないと明日の午前中が潰れる。潰してもとりたてて困ることがあるわけじゃないんだけど、あの女がこの家にいるって時にちょっとでも隙を作るのは嫌だし、寝よう。こんこん。ノック。
「……どっち?」
「あ、私。結菜」
 ドアを開けたら真冬がいた。すぐ閉めようとするけど足を入れられて阻まれる。「わあお姉さんちょろーい。あーでもいまのは私がすごいのか。私ニコ生で結構声マネほめられるんですよ」うるせー聞いてねーよそんなこと。
「で、その自慢の生主さんがこんな夜更けに結菜をほっぽっといてなんの用?」
「やだなあ、私が瑞奈さんに用があるわけないじゃないですか、瑞奈さんが私に用がありそうな顔してたから来てあげたのにひどい言い草ですね、叫びますよ?」
 渋々部屋に入れるとわーお姉さんのお部屋ー、と物珍しげに眺めてくる。そりゃ確かに結菜の部屋と違うけどそれがどうしたの。「案外普通なんですね。結菜の写真とか貼ってあるのかと思ってました」
「そんなわけないでしょ。ストーカーじゃないんだから」危ない、隠しといてよかった。ナイス私。
「血がつながってるストーカーをシスコンっていうんだなってお姉さんを見てると思いますよ」
「人聞きの悪いこと言わないで。……それで、何の用なの」
「ゆなーーーーおねえさんが」
 慌てて真冬の口を抑える、「ちょっと!」「やだなー、結菜がこれくらいで起きるわけないじゃないですか。焦ってます?かわいいなあ」かわいいって言えば済むと思ってんの?これだからかわいいで許されてきた人間は。
 ベッドに腰抱えると真冬もその隣に座ってくる。結菜が貸したパジャマは手も足も微妙に裾が短くて、まあこの子手足長いしなーと浸っていると顔が近い。
「緊張しました?」
「……さっきもしたでしょ」
「何をですか」
「……」確かに言わされる身になると恥ずかしい。その言葉を口にする事自体が隙になってつけこまれそうな感覚がする。駄目だ危ない。押し切られるな私。
「それで、なんの用なんですか?」
「訊きたいことがあって」
 どうぞ、と真冬が頷く。
「なんでああいうことしたの」
「つまんなーい。減点ひとつめ」
 なに減点ってと訊き返すと「みっつたまったら夕方したことをもう一回します」。ねえなんでこの女こんなに脅迫慣れしてるの?
「――あんた、結菜のことちゃんと好きなの」
「そうそう、そういうのですそういうの。思春期女子っぽいですよね、“好き”に“ちゃんと”とかつけちゃう感じって」
「自分も思春期女子でしょうが」
「まあそれはそれとして、結菜のことは好きですよ。だいたい好きじゃない人と付き合うほど私は好意に飢えてないし、暇でもないんで」
 あんなかわいこぶった格好してる奴に限ってこういうことを言う。
「お姉さんそれって偏見ですよ、私がこういう性格でああいう服が好きってだけです。あとかわいこぶってるんじゃなくてかわいいんです。まあそれはそれ、だから私は結菜とデートだってしますし、手だって握りますし。大体お姉さんより結菜のほうが会ったの先ですしね」
「……そう」
「どこまでいったか教えましょうか?」
「いらない」
 そうですか、とつまらなさそうな真冬とここまで話してきて気づく、真冬は騙すけど嘘はつかない。騙して嘘もつく人間よりはマシかもしれないけれど、私みたいなタイプはこういう人間に致命的に弱い。結菜のほうが得意……ってなるほどそういうこと。いやそうじゃなくて。「あ、あと減点ふたつめです」
「……。なんで」
「あんたって呼ぶのやめてくれませんか。私はちゃんと瑞奈さんって呼んでますし、遠藤真冬って名前もありますし」
「そういうの後出しじゃんけんっていうんじゃない?」
「それでも勝ちは勝ちですよ。はいひょっとしたらラスト一問、どうします?」
 くすくすと整った顔で笑う真冬。を、傷つけることを考える。真冬が結菜を傷つける前に遠ざけて、その結菜の傷くらいなら私だってそばに居て支えてあげられる。話を聞いたり抱きしめてあげたり。でも、……でも、そこに行くための最適解が見当たらない。どうやっても誰かを傷つける。その傷は絶対に、絶対に結菜を通過して、私のところにもやってくる。
 私は結菜を傷つけるのが怖いのか、自分が傷つくのが怖いのか。多分両方。優しいのはいいけどその使い方は下手、英花に言われたことを思い出す。じゃあ優しさってどうやって使えばいいわけ?
 私を見つめてくる真冬を見つめ返す。お互いに逸らさない。真冬がこうして私のところに来た理由。「人を好きになるのに、理由って要ります?」。
 好きになるのに理由はいらないかもしれない。でも好きになった人を騙すのには、理由がいる。それを私は知っている。
「真冬」
「なんですか」
「好き。私と付き合ってくれる?」
「減点みっつめ」

                     ◇

 結菜とはこういうことするの?なんて尋ねてから恥ずかしくなる。しますよ。好きですから。
 よく平気で言えるね。好きとかそういうこと。
 考えると平気じゃないから、口にして平気にするんです。
 そっか。

                     ◇

「私って負けず嫌いなんですよ」
 パジャマを整えてまた結菜の部屋に戻ろうとするときに、真冬がぽつりとこぼした。「結菜も瑞奈さんに負けないくらい学校だとシスコンなんですよ。二言目にお姉ちゃん、次の台詞もお姉ちゃん。で、隣にいるのにそんなことされて」そんなことしてるんだ。知らなかった。
「つい負けず嫌いで?」
「その時は、ですけど。それで瑞奈さんに告ったら私シスコンなんでとか言うじゃないですか。それで、」
「復讐してみたくなった」
「いいえ、二人とも私にぞっこんになったら楽しいかなって」
「さすが可愛い子はいうことが違う。あと、」
作品名:目覚めて二人におはようを 作家名:倉庫