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かいなに擁かれて~あるピアニストの物語~

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ピアノと伴に独り暮らす。と、いう娘を父母は自分たちの傍におきたかった。けれど、魅華は頑なにそれを拒んだ。
母が何かを言おうとしたが、父は母の手に、その手を添えてそれを制した。
魅華は母に添えられた父の手をじっと見つめた。
幼い頃、自分を抱き上げてくれた大きくって逞しかった父の手が、こんなにも薄く小さくなっていたことにはじめて気付いた。魅華は堪らなくなって父の手を自分の両手で包んだ。胸が苦しくなってもう声はでなかった。

幼かった頃から始めたピアノ――。
そしてその前からずっと視える――モノ。
裕福で何ひとつ不自由のなかった幼少期。
邪気に満ちた輩に陥れられて奈落の底へ落ちてゆくしかなかった父。
突然に見舞われた不運にそれまでと逆転した生活となろうとした時も、父はピアノだけは、魅華のために全てを投げ売って命を掛けてスタインウェイを残してくれた。そして母は、魅華がピアノを断念し諦めることを許しはしなかった。
大学にも進学させてくれた。
音大時代に教授から才能を認められて留学の薦めもあった。
今は著名な音楽家となって成功している学生時代の友人も多い。
だけど――、叶わなかった。置かれた環境がそれを許容しなかった。後悔などない。
まして、誰を恨むこともない。今もこうやって、「ワタシにはピアノがあるのだから」

魅華が今、何とか独りでも生活が送れるようになったのは、彼女のかけがえのない友人たちや音楽仲間の応援があったからだ。みんなが支え導いてくれたのだ。
古くからの友人たちは彼女のそれをよく知っていた。その力を『占い師として、仕事に結び付けたらどうだ』と提言してくれたのもその友人たちだった。友人のひとりが、天然石を扱うアクセサリーショップのオーナーと親しかった。早速その友人はオーナーに連絡をとった。
するとオーナーは店の宣伝にもなり、イメージアップと売り上げにも繋がると考え、土日と祝日を店の鑑定日に定め、演奏の仕事と重なる時は、平日に鑑定日をシフトすることを条件として、店の片隅にその場所を提供してくれた。
音楽仲間たちは、自分たちの持ち得る全ての人脈を屈指して以前に増して、魅華にピアノ伴奏の仕事をまわしてくれた。彼女自身も結婚式や様々なイベントでのピアノ伴奏の仕事を執った。
そうして、鑑定とのスケジュールをうまく調整しながら真心を込めて旋律を奏で続けた。