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海野ごはん
海野ごはん
novelistID. 29750
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’50sブルース リーフデが吠えた浜

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数日後、玲子と清治は街からさほど遠くない居酒屋にいた。久しぶりの街の灯だった。
玲子は普通の女性と変わらずビールを飲み、快活に笑っておしゃべりをした。
話題はもっぱら昔の学生時代の話だった。オランダ人のことは一つも話題になかった。
そして居酒屋を出た清治と玲子はラブホテルへ入った。
清治が誘った。玲子は嫌がらずついて来た。そして関係した。
普通の中年男女のセックスだった。それ以上もそれ以下でもなかった。


玲子はそれから頻繁に清治の店に来るようになった。
シズエは「遊びはダメだからね」と毎回釘を差した。店の常連客も玲子ちゃんの笑顔が見れるようになって喜んでいた・・・気がする・・・だけだった。

中年の50を過ぎた男女の仲の噂はすぐ町中に知れ渡る。
お互い独身であるが、どこから来たかわからない馬の骨のような男と、昔、町中を大騒ぎさせた女が一緒にいるってことだけで、噂は尾ひれをつけて飛び交った。
心もとない住民はどこか白い目で見ていた。
それは清治にも感ずることとなった。
「玲ちゃん、この頃またおかしくない?」と言ったのはシズエだった。
「そうだな、変な噂も多いからな」常連客の男が言った。
「変な噂ってなによ。この人達は独身だし、なんも悪いことしてないよ」シズエが怒る。
「やっぱり町で生まれ育ったもんは、どこか変な目で見る癖があるからな~。よそもんを」
「何言ってんのよ、清ちゃんここで頑張って何が悪いのさ。あんたたちが応援してあげなくてどうすんのよ」シズエは怒って、その男の頭を叩いた。
それからだった。店は揉めに揉めた。開店以来の大騒ぎだった。
清治は何も悪いことないのに頭を下げ、皆に謝ってその場を落ち着かせようとした。
客が帰ったのはいつもの閉店から1時間も遅かった。内輪もめ・・・今までなかった経験だ。
清治は明かりを落とし、ため息をついて店を閉めた。

テラスには9月の風が少し肌寒く吹いていた。新月の月はとっくに沈み、浜辺は真っ暗だった。それでも波の音は相変わらず聞こえていた。
犬の吠える声がした。
リーフデだった。嫌な予感がした。
清治はリーフデが吠える辺りをめがけて暗闇の浜を走った。途中、砂に足を取られ何度も転びそうになった。全速力だった。
名前を呼んだ。いや、叫んだ。
「玲子ぉ~~!」
「玲子ぉ~~!」
リーフデは真っ暗な沖に向かって吠えていた。
「よしっ、よしっ、どうした?玲子はどうしたっ!」
清治は喋れない犬に向かって聞いた。
リーフデは困ったように「くぅ~ん」と泣くと、また暗闇の沖に向かって吠えた。
玲子が行っちまった・・・・。
また清治は大きな声で叫んだ。
「玲子ぉ~~!」
「玲子ぉ~~!」
大きな叫び声とは対照に、波は規則正しくいつものように砂を引きずる音を残して海に消えている。
「玲子ぉ~~!」
「玲子ぉ~~!」
清治は腰まで海に入り、沖に向かって叫び続けた。
清治の声は海岸沿いの家に届いたのだろう。やがて救急車が赤い灯を回してやって来た。
そしてその浜辺は二度目の大騒ぎとなった。




清治はその海を離れることにした。店は看板を下ろした。
リーフデは引き取ることにした。
玲子と違って僕はここには居たくない・・・清治は引っ越すことにした。
最後に波打ち際まで歩いた。
誰もいない秋が近づく浜。
波はいつもの様に足元まで扇型の円を描き砂浜に綺麗な模様を残している。
清治は遠く沖まで見たが、やはりイルカは清治の目には写らなかった。

(完)