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海野ごはん
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’50sブルース リーフデが吠えた浜

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リーフデが吠えた浜 【清治55歳】





繰り返し押し寄せるさざ波は、砂に波紋を作る。
幾つもの扇を広げたような波打ち際模様がどこまでも続いていた。
さざれ砂の引く音に後ろ髪を引かれるように、砂粒や貝の欠片が引き波とともに海に沈む。
清治は足元を濡らす、波に目を落とし偲んでいた。
何度も清治の足元を波が行き来するたび、清治が踏ん張る砂をえぐり取る。
濡れたままの足はどうでもよかった。
清治は沖へと旅だった玲子の姿を思い浮かべ、呆然自失で何時間もそこに佇んだ。




55歳を迎え清治は早期退職の名目のもと、肩を叩かれた。
バブルの上昇とともに入社した清治の会社は業績を伸ばし続けていたが、時代の流れに逆らうことが出来ず、どこの企業でもそうしたように早期退職者を募るようになった。
そして、さほど優秀でなかった清治は真っ先に追い出される形となった。
社会人になった長男は同じような会社に勤めている。
妻は専業主婦なのだが家事は社交ダンスが専門というくらい入れ込んでいて、家に帰らない日も時々あった。清治の家庭はとっくに崩壊していた。3人の家族を繋ぐものは何もない。そんな折に早期退職の話が舞い込んだものだから、妻はこれ幸いにと離婚を切り出し退職金の3分の1を受け取りダンスのパートナーのもとに去っていった。
清治に残されたものはローンが後10年残った家と1000万ほどの退職金だった。
誰も居ない家に取り残された清治は早速、家を売りに出した。ローンの残額を引いて僅かな額しか残らなかった。

小さな入江を持つ海岸線の横に空き家となった元、レストランを見つけた。
これといって周りに知り合いは誰もいないが、思い切って買取り引っ越すことにした。
田舎の相場なのか、打ち捨てられたレストランなのか驚くほど安価で買えた。
とりあえず住居も付きだ。
清治はここを安住の地と決め、引っ越しをしてきた。
レストランをやるほど料理の腕はない。田舎の老人相手にカラオケ喫茶を始めることにした。それならば歌を歌わせて、軽い飲み物とおつまみお菓子を出すだけでいい。
さほど人付き合いも苦手としてないから、やっていけると思った。贅沢さえしなければ田舎のことだから生きていける。清治は気楽な第2の人生を始めることに決めた。

55歳というのはまだ若い。
都会からそう離れていないこの入江の小さな町内だが、老人がたくさんいる。
まだ若いと呼ばれる男が経営するカラオケ喫茶は日を経たぬ内、町内の憩いの場となった。
午後1時から夜の9時までが営業時間だ。夜になると辺りが真っ暗になる中、清治の店はあかあかと目立っていた。それなりの第2の人生どうにかやっていけそうだった。