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ねとげ~たいむ外伝 ~in,lunry,story~

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『グルルルゥ!』
 テラー・キマイラはゆっくりと体を起こした。
 次は風属性の攻撃が来る。
 すると私の隣にローネが立った。
「次は私が力を貸すわ」
「頼りにしてるわ」
「まぁ、言い出したの私だしね」
 ローネは左目を瞑ってウィンクした。
 唯月は高校に入って私と席が隣りになった事で知り合った。
 こいつは私より頭が良くて成績は学年トップ、さらに洞察力や観察力があり、細かい事まで良く気づく上に品行方正で面倒見が良い、直ぐにクラスとも打ち解け、まるで女神を体現した様な奴だった。
 その後テレビでラクロスの試合を見た萌の誘いで望と供に一緒に入る事になった。
 自慢する訳じゃないけど、私は体育の成績は良い方だし、意外と面白かったからそのまま入部する事にした。
 私は初めて数ヶ月でスタメンに選ばれ、望も補欠だけどゼッケンを与えられるくらい運動神経は高かった。
 だけど今までスポーツなんてやった事が無い唯月は体が硬くて足も遅く…… まして少し動いただけで息切れをしてしまうほど体力が無かった。
 最初は直ぐに辞めるだろうと誰しもが思ったけど、以外と根性のある唯月は今でも部活を続けていた。
 でもどちらかと言うと庶務の方が得意で、みんなに差し入れを持ってきたり、タオルやユニフォームを洗ったり、試合の映像を録画したり敵の戦力を分析したりする方が得意だった。
 現実、昨年度の敵校のデータを唯月が分析し、さらにラクロスのDVDを見たりパソコンで調べて私達にあった練習メニューを作ってくれたおかげで一学期の地区予選で毎年1回戦落ちだったウチの学校がベスト16まで入る事ができた。
 ハッピーは『選手じゃ無くてマネージャーにならない?』って言ってたけど、唯月は『皆とグラウンドを駆け回りたい』と言って今でも体力作りに励んでいた。
 ゲームとは言えこうして肩を並べられて私はとても嬉しかった。
 いつになるか分からないけど、努力が報われて一緒に試合に出られれば良いと私は思った。
 この中で1番努力家で大真面目、そして誰よりも頼りになるのはこの唯月だった。

 テラー・キマイラは口を開いて風の攻撃を仕掛けて来た。
『ガアアアアッ!』
 無数の風の砲弾が迫る中、ローネは先端が形状なった柄の長いハンマー・メイスをモンスターに向けて叫んだ。
「スキル発動っ!」
 ローネの目の前に半透明の長方形のバリアが出来上がった。
 テラー・キマイラの風の砲弾は阻まれると放った張本人の方へ跳ねかえった。
 これはローネが新しく付け加えたミラージュ・スキルと言って、HPを半分削る事でたった一度だけ物理・魔法などの全て攻撃を跳ね返す事が出来ると言う事だった。
 しかしテラー・キマイラは風属性時は2回攻撃が出来る、風の砲弾は跳ね返しても翼の手裏剣が残っていた。
 テラー・キマイラの背中の翼が大きく広げると羽根の1枚1枚が鋭く尖った。
 そして大きく羽ばたかせると羽根の手裏剣が飛び出し、跳ねかえった風の砲弾とぶつかって爆発して相殺した。
 でもそれは囮だった。
 私は両手を交差させるとトマホークに渾身の力を込めて放り投げた。
「円月輪っ!」
 2つのトマホークは高速で回転しながら空気の壁を突き破ってテラー・キマイラ目がけて飛んで行った。
 トマホークはフリスビーの様に回転しながらテラー・キマイラの翼を突き破った。
『ギャアアアアッ!』
 木の葉が全て散った木の枝の様に黒い翼が宙に舞った。
 トマホークは楕円を描きながら私の手の中に戻った。
 これで羽根の手裏剣は使えなくなった。
 5つの属性の内4つを破壊した。
 残るは火属性のみ…… さっきから有効的なダメージを与え続けたのでクリスタル・ドラゴンの能力で回復しても大した量じゃ無い。
 皆私に力を貸してくれた。ここから先は私が力を貸す番だ。
 私は右手にバスター・ソード、左手にアイスダガーを装備すると後ろにいる皆に言った。
「みんな…… 本当にありがとう」
「どうしたんだよ、急に改まって?」
「別に…… ただ皆とゲームやれて本当に良かったってさ」
 私は9月のファミレスを思い出した。
 最初はただの成り行きだった。
 でもいざ初めて見ると凄く充実していた。
 現実世界には剣も魔法も存在しない…… でもこの仮想現実ではこれが普通だった。
 1人で何物にも縛られずに(中には勝手に自分の設定作って)冒険をするも良し、気の合う仲間を見つけて冒険を楽しむのも良し…… 全てが自由、道は無限に広がっている。
 このゲームのアバターは本来自分がなりたかった自分なのかもしれない、強くて賢くてカッコ良い(女の子は可愛いも入る)理想の英雄像…… 開発者が何を思ったのかは分からないけど、きっとこれを伝えたかったのかもしれない。
 すると皆も同じ事を思ったのか、私に言って来た。
「そうね、気が付いたら結構はまってる物ね」
「私も、こうしてゲームしてる時間が…… 何よりの楽しみになったよ」
「おいおい、そう言うのはエンディング迎えてから言うもんだぜ」
「そうっス、そっス! アタシ等まだランク2っスよ」
「それもそうね」
 私は微笑した。
 確かに気が早い、こう言ったのは最終局面で言うべきだった。
 私達がいるのはまだ初心者用ビギナー・ランクのランク2、そこからランク10まで昇り終えると上級者用のエキスパート・ランクが待っていて…… さらにその上には最上級者用のマスター・ランクが存在する。
 果たしてそれらを全て制覇できるかどうか分からない、途中でゲームを止めるかも知れない…… だけど1つだけハッキリ言える事がある、それはこの瞬間が最も楽しいと言う事だった。
 でもどんなに楽しい事でも終わりは必ず来る、そしてそれは今訪れた。